忍少年と隠忍自重 069

『キング』は息を吐いて、受け入れるように体の力を抜いているようだった。
らしく、ない。
抗いをせず、諦めている姿なんて、見たくはなかった。
いつも不敵な笑みを浮かべる『キング』を、忍は傲慢だと思っている。
たまには苦い思いをして、謙虚という言葉を覚えてもらいたいぐらいだ。

それは今だって変わらないが、どうにか出来る状況を甘んじて受け入れている姿勢は、まるで『キング』の矜持をへし折られている光景のようで、それがどうしても許せなかった。

いつものように、勝ち誇った笑みを浮かべていればいい。
いつものように、心底腹が立つ俺様な発言をしていればいい。

それが、今じゃ―――……

右上腕だけでなく、右足まで壊されて、ボロボロになっていくのを黙って見ていろと?
誰かの足骨が折られる瞬間なんて恐怖を感じたことがなかったのに、今ではどうしようもなく、それを見たくなかった。

―――王者が、王座<プライド>より引きずり降ろされ、愚か者どもの前で処刑される様なんて……

『キング』はそんな簡単にやられていい存在ではないはず。
ヒーローは悪に負けてはいけないはずなのに、今まさに破れてバッドエンドになりそうだった。
そんなバッドエンドなんて、一体誰が望むというのか。

助けてほしいと言ったのは自分だが、こんな助けられ方―――望んじゃいない。
まるで戦隊ものの、何もできないヒロインのようだ。

―――許せない

全てが、許せない。

朝倉が口を開く。

言わせてはいけない。許せない。
けれど手も足も使えない。許せない。
どうやって止める。許せない。
どうやって塞ぐ。

塞ぐ塞グふさグフサグ。


「それじゃ、や……―――!?」


中途半端に、朝倉の言葉は途切れる。
周りの男たちは狼狽し、鉄パイプを握る男も振り上げた体制のまま硬直した。
珍しく『キング』さえも拍子抜けたような顔で呆然としている。

沈黙が、生まれた。

朝倉は、忍の咄嗟な行動に、純粋な驚きで眼を丸くしていた。
瞳の色さえも鮮明に分かる距離だったから、忍にはそれがよく分かる。


―――忍は朝倉の口を塞いでみせた


それは自分の唇を、朝倉の『もの』と合わせるという行為によって……。


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