忍少年と隠忍自重 067
「それじゃ―――お約束通り、その右腕、いただくよ」
朝倉が後ろにいる連中に、合図する。
『キング』の背後から男が一人―――鉄パイプを両手で握って前に出てきた。
その顔には、『キング』を仕留められるという喜びで、ギラギラと目を光らせている。
「やめ……っ!!」
『キング』と目が合った忍は、彼から目が離せなかった。
腕を折られるという恐怖はないのか―――ただ、忍をじっと見て、心の内が読めない笑みを浮かべる。
その間、『キング』の後ろでは、男がパイプを天井高く振り上げて―――
忍がひきつった声で、止めろと呟く。それが同時だった。
「やって」
朝倉の合図で、鉄パイプは『キング』の前腕を直撃した。
―――バキッ!!!!
木の幹が潰れるような、鈍い音が木霊する。
一瞬だったが、『キング』は少し柳眉を寄せた。腕はだらりと力無く下がる。
忍は声も出なかった。
信じられないものを見て、動揺で瞳孔を大きく揺らす。
「なんで……」
雷が落ちたような衝撃が、忍を硬直させた。
とにかく『ショック』だった。
たかが、野良犬程度に、『キング』の体を傷つけられた事実が―――……
自分の存在が、『キング』を窮地に追い込んでいく。
「うん。ありがとう、『キング』。これで怖くなくなったよ。だけどね、実はその右足も怖いんだ。君の蹴りも相当威力があるからね」
『キング』の背後で、鉄パイプを握る男がにやにやと笑みを浮かべて、再度それを横に振り上げた。
周りにいる観客達は、人を馬鹿にしたように大笑いをする。
『キング』は嘆息した。
「―――ちっ。小心者め」
「俺がそうするって最初からわかってたくせに」
「その予想通りなのがムカつくんだよ」
「―――……やめぃ……」
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