忍少年と隠忍自重 065
「やぁ『キング』。随分早いお越しだね」
忍を抑え込む力を緩めないまま、朝倉は親しい友人に話しかけるように『キング』を呼んだ。
朝倉の口調は当初のものに戻り、忍に囁いた粘り気のある声は、嘘だったように消えてなくなっている。
「まさかこの招待に応じてくれるなんて、感激だね。ようこそ、『キング』。来てくれて嬉しいよ」
「お招きありがとよ。こりゃ確かに熱烈な歓迎だなぁ、オイ。それはそうと―――」
傲慢な笑みを浮かべていたキングの目が、険呑になる。
「…よくそんなおっかないモノを組み敷けたもんだ。奴は直ぐ噛みついてくるから、俺でも手を焼くぐらいだってのに」
「ほんとだよ。忍クンの相手は本当に骨が折れるよ。―――だけど言う事を聞かない者を強引に組み敷くのって、雄としての本能なのかな。とっても興奮するんだ」
楽しいよと、朝倉は微笑んだ。
「―――本当に一人で来たんだ…？」
「大人数で押しかけたら迷惑だったんだろが」
「さすが気が利くね」
不満そうに鼻を一度鳴らして、それから『キング』は忍に向かって顎を反らして見せた。
「おい、忍。お前遊んでないで本気出せよ」
「あほか！！俺がわざわざ組み敷かれる様な真似を、本気で許すと思ってるんですか…!!」
朝倉の腕下から顔を無理やり出して、忍は叫んだ。
ふざけているのかと思っていたが、忍の予想に反して『キング』は声を低く唸らせた。
「―――許す訳がねぇよな、忍。だったらとっととそこから這い上がれよ……お前のプライド賭けて何がなんでも撥ね退けろ。お前にそれができない訳がねぇ」
「は……」
忍は驚きに声も出ず、喉元に何か詰まったように反論出来なかった。
―――『キング』が何故、まるで我が事のように、ここまで真剣に怒っているのか……、忍にはそれが分らなかった。
「あははっ！『キング』は俺なんかが忍クンを組み敷いてるこの状況が許せないんだね！」
「……あいつを押し倒していいのは俺だけだからな」
「でも無理だよ。俺は忍クンを離すつもりないだから。それでも離して欲しいならさ…」
明朗に笑って、朝倉は忍の頬に唇を寄せた。
「―――力づくで奪ってみなよ、『王様』」
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