忍少年と隠忍自重 064


◇ ◇ ◇

「『王、様』…」

弱々しい忍の声に、男―――『キング』はそれに反応せず、辺りを目線だけ動かして観察し、状況の確認を始めた。
むせかえるような血の匂いと重苦しい殺気の重圧。忍が散らかした血まみれの男達に、忍を柵のように取り囲む、必殺道具を持った男達。―――それらを順に一瞥する。
忍自身も血まみれで、まさに修羅場のような状況だった。―――にも関わらず、『キング』は顔色一つ変えていない。
一望した後、再度忍に視線を戻した『キング』は顔を歪める。

「…情けねぇな…」

最後には、『キング』は悲観するように壮大なため息を大げさなほど吐き出した。
忍は最初、何を言われたのかを理解できなかった。
けれど、ゆっくりとその言葉を噛んで砕いてすり潰してようやく呑みこんで―――それが組み敷かれた自分に対する言葉だと悟った時、忍のこめかみに青筋が浮かんだ。

「も……もとはといえばなぁ…!!」

てんめぇのせいだろう!!!!こんのすっとこどっこいがぁあ―――ぁあ!!!!!!

文句が口からこぼれそうになったのを、忍は歯をギリギリと食いしばって耐えた。―――耐え抜いた!!
いつもと変わりない態度と反応は、この現状をまるで分かっていないようだ。
何を言われるのか、どんな反応をされるのか、少なからず緊張していた忍は、取り越し苦労だった事を知る。
一体どんな図太い神経をしているのかと、呆れよりも関心が強い。
あながち、『キング』という名に相応しい堂々っぷりだった。
お陰さまで忍の中に芽生えた暗闇は、一気に吹き飛んだ。

「よぉ、忍。……随分、色っぽい格好してんじゃねぇか。―――そそるぜ?」
「お前……!!この期に及んでまだふざけるつもりかぇ?!!!」

「ふざける?―――大いに真面目な話だ。連中にその体、触らせちゃいねぇだろうなぁ……?」
「本気で言うとるんやったらほんま馬鹿な男や……!!!」

誰がそんな真似を許すものか―――忍は憤慨した。
この時は本当に朝倉の存在を忘れた。

「で、その血はお前のものか?」
「そこら辺で倒れている連中のを浴びただけです!!」
「そうか……。ずいぶん派手に散らかしたな」

いきなり、ほっとしたような顔を見せる『キング』に、忍は調子を狂わせる。
怒りもすっかり凋んでしまった。
いつもの傲岸不遜な態度だったなら、忍も直ぐに怒鳴り返してやれる。
けれど、これほど真っ直ぐに分かりやすく、身を案じられたと知らされても、正直どう反応して良いのか、忍にはそれが分らなかった。
だから気まずげに視線を逸らし、『そんな感情』を向けられた事に気づかない振りをしてしまった。

「なんで……なんで、来てしまったんですか……」

聞こえるか分からない小さな呟き―――やはり聞こえなかったのか、『キング』はその言葉に反応する事はなかった。


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