忍少年と隠忍自重 057



「へ〜。そんな小さなナイフで俺達とやり合おうっての?」
「そんな危ないモノ早く捨てて降参しちゃいなさいよ〜」
「…」

男達がゲラゲラと腹を叩き合って笑うのも無理はなかった。
忍が持つ、(元・藤堂の)小振りのナイフはリーチが短い。
忍との距離を慎重に計れさえすれば、危険な喧嘩が日常である男達にとって何の脅威にはならなかったのだ。
腕を斬られた一人も、不謹慎に近過ぎた結果だと、浅い傷を放置して嘲笑っている。

「その可愛い歯は全部抜いてやらねぇと分からねぇようだな、子猫ちゃん」

忍に対抗してか―――男達の手には、廃棄物と思われる蛍光灯や鉄パイプ、更には忍の持つそれよりもリーチが長いナイフを引っ張りだして、構える。
しかし忍は依然、その整った顔を感情で歪める事なく、悠然と男達を凝視していた。
吠えるばかり獲物を狙った狩人のように、気配を殺して『静』を纏っている。

まるで猫のように、じっとじっと獲物を見つめ―――

眼を瞬きも反らしもしない、しゃべりもしない忍の不気味な気配に、男達の偽善染みた笑い声は突如止んだ。

「その澄まし顔、腹立つなぁ…。徹底的に歪ませてやる…!!」

全身の力を抜いている忍に向かって、思いっきり二の腕を斬られた一人が、鉄パイプを縦に振った。

「うらぁあ!!」

それはそのまま忍の脳天に落ちる前に、忍の構えたナイフの刃と衝突する。
しかしここで力比べはせず、刃の平を斜めに傾け、巧妙にパイプを滑らせて、落下する方向を変えた。
その際、火花を散らし、耳に劈く様な音が響く。
ガンッ―――と忍の横すれすれの地面に、パイプが叩きつけられた音が弾く 。
同時に、既に小振りのナイフを振り上げた忍は、男の懐へ飛び込み、腕を伸ばしている男の脇を容赦なく切り裂いた。
一斬と共に、忍の長髪は刃の軌跡を辿り、法線を描いて散らばる。

「ぎゃぁあ!!」

血の真珠が、散らばって砕けて地面を汚す。
ざっくりと、肉を絶つ音。血が噴き出す音。パイプが落下した際の、けたましい音。
生臭い匂いが瞬く間に充満し、忍の白いワイシャツは赤に濡れた。

「いてぇえ…!!いってぇええ!!」

忍に斬られた男は痛みのあまり脇を挟んで、地面を転げまわる。
その目からは生理的な涙を流し、苦痛に顔を歪ませていた。
しかし忍は片足を持ち上げて、男の腹に寒心の一撃を与える。

「ぐはっ…!」

それだけで男は白い泡を吹き、白目を剥いてぐったりと動かなくなる。
まさか本当に斬りつけ、怯むことなく止めを刺すとは思わなかった男達が、ぎょっと眼を剥いた。

「っ!?」
「お、おい…!!殺したのか…!?」
「い、いや、死んじゃいないだろ…!!」

その容赦ない一撃に気後れする若者が後ろへ下がる。

「怯むんじゃねぇ!!一斉にかかれぇええ!!」

しかしプライドを優先する若者は、やられた一人が崩れると同時に、四方八方から忍に襲いかかった。

「…」

忍は、僅かに顔だけを後ろへ向ける。瞼を半分だけ落して、長い睫毛の奥にある紅の瞳が昏く光っている。
スローモーションのように、左右から蛍光灯を振り上げる若者達、正面からは、ナイフを振りかざす男―――その目は血走り、何としてでも忍を仕留めようと殺気立っている。
忍は漂ってくる血の匂いを嗅ぎながら、唇の端についた被害者の血を、長い舌を伸ばして舐め取った。

line
-57-

[back] [next]

[top] >[menu]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -