忍少年と隠忍自重 056


◇ ◇ ◇

今の忍には、あの男…『キング』に頼ろう当てにしようなどという気持ちなど一切ない。
『助けて欲しい』と要求をしたのは、空<ソラ>達を逃がすための隙を作るためだけであって、元々期待などしていなかった。
『キング』のせいで巻き込まれたから、責任もって助けてもらおうなど、はなから思っちゃいない。

縋るつもりも頼るつもりもない。

これは自分の手で解決できる問題だ。

―――いや…違う、自分の手で片づける。片付けてみせる。

だから刃を握った。
自分の手で、落とし前をつけさせる。あの男が来る前に。
けれど正直、『キング』がここへ本当に来るか、忍にも分かない。
ただ忍に言える事は、もしも言葉通りあの男が一人でノコノコと来るとすれば、それは愚かな行為であるという事。―――例え忍の身が危ぶまれるとしても、その先にあるのは破滅だ。
むろん、あの男が尻尾を巻いて逃げる事はありえないと分かっているが、『キング』にとって忍がそれほど価値があるとも思えない。

友人?

恋人?

―――ましてやクラスメイトでも何でもない

拾って拾われて、自然と切れる細い糸のような関係が、切れずにダラダラと続いているだけ。
真っ赤な他人に近い存在だ。
そんな自分一人を助けるために、高いリスクを背負って重い腰を持ち上げると思うには、互いにまだ関係が浅すぎる。
けれど…

『―――助けて、欲しい』

そう言った時、微かに微笑んだ気配は、これまでの中で一番穏やかなものだったと思う。
直接的な言葉ではなかったが『必ず助けに行く』と、熱心にそう言われたような気がした。

―――待ってろ…と

(けんど、残念やなぁ…)

忍は心底、そう思った。

(うちはあんたを、そないな信用しとらんのよ…)

だから、お前を待つことなど出来ない。


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