忍少年と隠忍自重 053


「―――へぇ…やっと分かったよ。『キング』があんたを気に入った理由がよ…」

舌舐めずりをしながら、男は忍の肩を掴んだ。
忍はそれに成されるがまま。ただ口元に笑みを浮かべたままだった。

―――その刹那

赤い、軌跡が宙を舞った。
それは形を変えて、踊って、最後は地面に刻まれる。

「は―――?」

最初は何が起こったのか、それが良く分からなかった男が、自分の腕が切られたと知ったのは、忍の手に握られたナイフと、地面に落ちた血を見てからだ。

よくよく見ると、忍が握っていたそれは藤堂が自慢していた、あのナイフである。

元が捨ててしまって、それっきりだったそれを忍が偶然拾ったのだ。

「いって…っ!!」

ようやく痛みを自覚した男は思わず手を庇うように片手で押えて後ろへ下がった。
男達はいつの間にか忍がナイフを持っていた事に驚いていた。

「まだそんな力があったかよ…」
「いまさら対抗するつもりか?」
「ははっ。お前が何人倒したかしらねぇけど、まだ半分も男は残ってんだぜ?」
「ここにいるのが全部だと思ってんだろ?もしもここで俺達全員倒しても、朝倉さんの元にはまだ男達は残ってるんだからな」

忍はそんな言葉を聞きながら、ゆらりゆらりと億劫そうな動作で立ちあがる。
頼りなさそうに左右に揺れながら、忍の両手はだらりと垂れ下がって、力が抜けていた。
制服は所々で破けて、もはや着ているのか着ていないのか、それが分からない。

ただ纏っているだけである。

白いワイシャツの一部は深く傷ついたのか―――赤い線の走った白い肌が見えていた。

忍が思った以上に『魅力的』だと分かった今、そんな姿は興奮するような要素としか男達には映らない。
自分が捕まえて、それで味見をしてやるのだと、男達の目は瞬く間にやる気を取り戻していた。

もちろん捕まえたらみんなで仲良く味見だ。

しかし、きっと一番最初にひれ伏させた奴が、優先だろうから、なんとしてでも自分が捕まえたい。
そんな男達の雑念も知らないまま、忍は口角から顎に伝う赤い筋を乱暴に手の甲で拭い、それから黒の制服を脱ぎ棄てた。
破けて纏わりつくそれが、両腕の動作に障害をきたすと判断したからだ。


『これからの事』に、とても邪魔であると―――

line
-53-

[back] [next]

[top] >[menu]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -