忍少年と隠忍自重 052


忍は肩で息をつき、無抵抗である様を見せる様に微動だしなかった。
その周りには、うめき声を漏らして、体を痛みで震わせる男達が山のように転がっている。
―――恐ろしい事に、彼らは忍が一人で裁いたのだ。
それを思うと、男達はとんでも無いものを拾って来たのだと顔を顰めた。

「世話焼かせやがって…」
「随分暴れてくれたじゃねぇか…」
「そいつの指でもへし折ってやれよ」

男達はすっかり忍が『餌』である事を忘れていた。
ここまで荒らされてしまって、何もしない訳にはいかないと思っているのだろう。
少しぐらい痛い目に合わせなければ、この埋め合わせは出来ない―――もしかすれば、指導者であった藤堂がいなくなった事。
そして朝倉が不在とあって、歯止めが効かなくなっているのかもしれない。

連中の秩序が壊れた今、何でもありという最悪の状況にある。

よって忍が、例えここで彼らの玩具にされても、誰もそれを止める事は無いだろう。

「おら―――急に大人しくなったな」
「けど、今頃遅いぜ?…命乞いもするなよ」
「おい。いつまでそうしてる。こっち向けよ」

いつまでの動かない忍に焦れたのか、男の一人が無防備に忍に近づいた。
忍の前髪を鷲掴み、立ち上がらせようと引っ張った瞬間―――容易に剥がれた『それ』を掴んだまま、力加減を誤った男は勢い余って後ろによろめく。

「うおっ!?」

まさか剥がれると思っていなかった男は、手から生えている黒い毛の塊を凝視して、それから忍を見た。

「…お前…」

忍の頭に残ったのは、ネットに束ねられた同じ黒髪。

―――掴んで剥がれたその髪が『鬘』だと知ったのだ。


思わぬ事実に、男達は目を丸くした。
そして、未だ地面をじっと見つめる忍。

ふと、忍が顔を持ち上げた。

伏せがちだった双眼がしっかりと、男を見上げた。

男達は先ほどから感じていた違和感を初めてここで解消できた。

ずっと忍と闘っている間、なんども目の錯覚だと思っていた忍の目の色―――それは間違いなく烈火のように燃え上がる、強烈な赤だったのだ。

男達は声もなくして、初めて見る人種に見とれていた。

カラーコンタクトで赤を選ぶ者は見る。

しかし、最初から赤を持つ者は生まれて初めて見たのだ。

それだけでなく、ずっと野暮ったい黒髪と眼鏡で、地味な印象しかなかった忍だが、このように改めて容姿を見ると、それほど悪いものではないと気付いた。

更に、そう強く思わせるきっかけを作ったのは、忍が自分の髪を纏めるネットを緩慢な動きで取り外したからだ。

その瞬間に、上等な絹を掬って掌で転がる様に―――さらりと黒の糸が零れた。
朝露に濡れた鴉色の長髪。清楚な少女を思い浮かべるほど、忍には短髪よりも遥かに似合っていた。

たったこれだけの動作なのに、色の無かった忍に『色』がつく。

猫のような大きな目。小粒の鼻や、小娘のようにふっくらと整った唇には謎めいた笑み。
その肌は日本人にしては随分と白く、日に焼けた個所など一つもない。

一見すれば、まさに『女』のような体躯である。

忍に近づこうとした男は、にやりと笑った。
そこには空<ソラ>を見ていた時と同じ、好色が紛れこんでいた。

「―――へぇ…やっと分かったよ。『キング』があんたを気に入った理由がよ…」

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