忍少年と隠忍自重 049
「おい!!さっきの勢いはどうしたよ!!!」
咆哮するように、男がはち切れんばかりの青筋を立てて、顔を真っ赤にし、元<ゲン>を殴りつけた。
「ぐっ…!!」
人形のように吹っ飛ばされた元<ゲン>。
仲間である男がそれを受け止め、腕で首を絞め上げて固定した。
「ナイス、ストレート!!かっこいい!!」
「や、やめ…!!」
首を絞められて苦しんでいる元<ゲン>を、男はここぞとばかりに何度も殴る蹴る。
「っ!!」
「いやっぁあああ!!」
悲鳴が、男達の笑い声にかき消される。
空<ソラ>の体を犯そうと男達が涎を垂らし、良い玩具が出来たとばかりに後輩達はストレス解消の道具となる。
悲鳴、悲鳴、悲鳴。
―――しかし、妙にその悲鳴が多い。
遠目で取り囲んでいた男の一人が、不審に思って振り返った瞬間だった。
男は、突然の激痛に悲鳴を上げたが、空<ソラ>の悲鳴に混じって掻き消えてしまう。
そして元<ゲン>や律<リツ>健太を殴っても、男達の中で必ず誰かが倒れた。
そんな些細な異変に、最初こそ誰も気づかなかったが、一人―――また一人消えていくにつれて、周りで傍観していた男達がようやく気付き始める。
「あぁ?なんか妙じゃねぇか…?」
「へ?」
加害者の男達もその空気の変化に、殴る手を疎かにした。
胸騒ぎがするような違和感に、表情が厳しくなる。
本来、仲間の内で消えていくはずはないのに―――何故か減っている?
「ぐぁああ"!!」
その時、予感が的中したように男の太い断末魔が工場内に響く。
「…あ…」
思わず手を止めて―――忘れてしまっていたその存在を、ようやく彼らは思い出した。
再び体を手慰みされ、白い肌を晒す空<ソラ>も、タコ殴りされ、酷い傷を再び顔に作った後輩達も、のろのろと顔を上げて、『彼』がいるであろう場所を見た。
しかしそこにはもう『彼』の姿はなかった。
探し始めるのが、あまりにも遅かったのだ。
「アイツはどこに―――」
「っ!!」
元<ゲン>を掴んで離さなかった男の悲鳴。
元を殴ろうと構えていたその男が、目の前の仲間に視線を戻した時には、ようやく探していた少年が―――ぞっとするような灼熱と、冷たい眼で男を射抜いていた。
―――いつの間に
仲間の手から元<ゲン>が崩れ落ちると同時に、忍は握っていたスタンガンの閃光を散らし…。
忍の標的にされた男には、その動き一つ一つが、スローモーションに見えた。
気付かないうちに紛れ込んでいた忍の姿に、周りの男達も目を見張る中―――男の腹にそれは食い込む。
焦げる、匂いがした。
犠牲者になった男の意識は、そこまでだった。
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