忍少年と隠忍自重 044


「―――この『シラトリ シノブ』って奴は置いていく!!だから、俺達と空<ソラ>先輩だけは逃してくれ!!」

「元<ゲン>君!」

非難した空<ソラ>を忍が止めた。

「いいから、空<ソラ>さん」
「でも…っ」

「―――俺はここの連中にも、『キング』にも用があるんだ…」
「駄目だよ…っ。一緒に逃げないと…っ」

忍の腕を掴む空<ソラ>の手。汚れた爪が、ぎゅっと忍の二の腕の肉に食い込む。
痛いぐらいの力から、『絶対』という意思が伺えた。


―――事実、空<ソラ>は絶対に忍とも一緒に逃げたかった


この場に、誰一人取り残したくなかったのだ。
空<ソラ>の不安げに揺れる瞳からは、心底忍を心配する色が浮かんでいた。

「お願い…一緒に逃げて…」

忍は、空<ソラ>のその必死な想いに困惑した。
死ぬわけではないのに、一体何をそんなに心配しているのか―――それが分からなかった。
だが、きっと空<ソラ>には忍の困惑を微塵も理解出来ないだろうし、忍も空<ソラ>の恐怖を一滴も汲み取る事が出来ないという事は、分かった。

―――分かったが、それならどうしたらいいのだろうか。

理解してもらえないし、納得もしてもらえないだろう。

それなら、どうやって彼女達とこの場で別れる事は出来るのだろうか―――?

その間に、男達の間で会議がのんびりと行われていた。
あまりこの状況を重んじている風には、彼らの軽薄な様子からは伺えない。
ただ一人、人質の藤堂だけが血相を変えている。

「う〜ん。まぁ、またこうやって反抗されちゃ困るしなぁ。藤堂はまた捕まっちゃうし…」
「もうこいつら邪魔だし、いいんじゃね?」
「そうそう、こいつらには逃げ場所なんて無いんだからさ」
「朝倉さんは別にシノブだけいればいいって言ってたし。もともとおまけじゃん、こいつら」
「そんじゃ―――いいんじゃね?」

男達は顔を見合わせて、その内の一人が頷いた。

「―――扉を開けてやれ」


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