忍少年と隠忍自重 043


一方、藤堂は脅されている事がばれるなど、そんな恥をさらしたくない。―――そんな思いから、焦燥していた。
藤堂は思わず、非難染みた顔を隠さないまま、こちらに向かって歩いてくる男の方へ振り向いた。
気付かれないよう、脅された手を忍の背中に隠しながら。

「お、おい。なんでこっちに来るんだよ…」
「あぁ?いいじゃん。行きたいから行くんだよ」
「…」

あの男が来れば、もう全てが水の泡だ。
忍が不退転の決意を固めようとした、その時だった。


「くっそ!!」
「元<ゲン>!?」

律<リツ>の叫びも乏しく。
元<ゲン>が、咄嗟に忍の後ろへ周り、ナイフを奪った。

「!!」

まさかの出来ごとに、ナイフを奪われた忍もさすがにぎょっとした。
元<ゲン>は握りしめたそのナイフを、藤堂の首筋に刃を押し当てたのだ。

「ひ…っ」

藤堂が短く悲鳴を上げる。
元<ゲン>の手は震えながらもしっかりと力んでいるようで、勢い余って藤堂の首筋の薄皮を二三枚捌いてしまったようだ。
そこから血が流れる。
藤堂はどうにか悲鳴を押し殺しながらも、元<ゲン>の危なっかしい刃物の扱い方に顔を青くさせる。

ぴたりと、こちらに来ようとした男の歩みが止まった。
額に手を覆って呟いた。

「またかよ…」

元<ゲン>は男達を睨みつけながら、腹の底から叫んだ。

「―――扉を開けろ!!」

今まで見向きもしなかった男達が一斉に元<ゲン>に注目した。
その目には驚愕というよりは状況を理解出来ていない野次馬のように、案外冷静な目で元<ゲン>を見ている。

「誰も近づくなよ……っ!!」

元<ゲン>は恐らく最初の忍の真似をしているのだろう。こうすれば、連中は言う事を聞くのだと学習したらしい。
しかし―――

(二度も同じ事が通用するとは思えへん…)

それが問題だった。
だが、もう後には引けない。
忍は咄嗟に『演技』を止めて、堂々立ちあがり、律<リツ>に声をかけた。
それに、見ていた男たちは今度こそ目を見張った。
元<ゲン>が反撃した事よりも、忍がどうやってあの固い束縛から抜け出したのか―――そっちの方がはるかに不思議でならないらしい。

「俺は空<ソラ>さんの縄を解く。君は健太の縄を解いて」
「エ…」
「はよう」

共通語になったり変わったり―――そんな変化に戸惑いつつ。
忍の促しに、律<リツ>は怒られた訳でもないのに、両肩を飛び跳ねさせて、慌てて健太の元に駆け寄った。
固い結び目に苦戦を強いられながら、縄を解いた。
二人の手首には、忍同様―――擦れて赤く肉が膨れている。

その間、元<ゲン>は己を勇ませながら、同様声も張りあげていた。
その両足は細かに震えている。

「開けろよ!!」
「…」
「開けろ!!」
「…。そういう訳にはいかないんだよね。今彼を逃す訳にはいかなくてさ」

こちらに来ようとしていた男が軽く両手を掲げた。


「ごめんね?藤堂。でも、捕まるお前が悪いよ」

侮蔑とも取れるその視線に、藤堂の顔が赤くなる。

「てめぇ…!!」

やはり、二度も通用はしないのだろう。
忍は嘆息した。

「くそ…っ」

元<ゲン>は忌々しそうに舌打ちをして、一瞬だけ、忍に視線を向けた。
しかし、振り払うように再び元<ゲン>が前を向くと、男達に向かって再び叫んだ。

「―――この『シラトリ シノブ』って奴は置いていく!!だから、俺達と空<ソラ>先輩だけは逃してくれ!!」


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