忍少年と隠忍自重 019

「空…先輩…!!」

引きつったような、蚊が鳴くような小さな声がした。
空と呼ばれたその少女―――坂下 空<サカシタ ソラ>は久しく呼ばれなかったその名前に、弾かれたように闇を凝視した。
己を知っているものがいる。それは空にとって恐怖以外の何物ではなかった。
特に学校と私生活には大きな違いがあるだけに、それは人一倍である。

闇の中で、身動きが取れなくなっていたのは3人の少年達。
空と同じ学校の制服をだらしなく着て、空の現状を見て、その艶やかな性現場に顔を青くしている。

凍りついたように動かない両者。
そこへ、空に話しかけていた男が不思議そうに問いかけた。

「そいつらなに?」
「―――ああ。人手足りねぇって言ってたからよ、連れて来たぜ」

そう答えたのは、この3人を連れて来た若い男―――藤堂だった。
3人よりも前に立っていた藤堂は親指を後ろで指して、男に教える。

「こっちの金髪が『健太』。ほら、お前も知ってんだろう?山口の弟だよ」
「あ、ああ…。あいつ弟居たんだ?」

そう言って、大して驚いた様子もなく、硬直状態の少年達に男は自己紹介した。

「えっと健太君だっけ?俺『朝倉』っていうんだよ。君のお兄さんとは遊び仲間だったんだ」

そう言って、朝倉は人の良さそうな笑顔を向ける。
しかしその背後には、強姦という犯罪行為が行われているのだ。
その場に適さない陽気な笑みに、3人の少年達は背筋が凍りつく思いだった。

「で、あとの二人は健太の友人って訳だ」
「ふ〜ん」

「それよりも、朝倉さんよ」

今まで行われていた強姦行為を目撃して、嬉しそうに藤堂は喉を鳴らした。

「次は俺にやらせろよ。ちゃんと集めてきたんだからさ」
「藤堂。そいつら、本当に役に立つの?」

「あぁ!?そりゃ、使いどころ次第じゃねぇのか?」

藤堂はもう心そこにあらずといった様子で、早く褒美をくれと、魅力的なメス<空>の前に早くも欲情していた。
興奮しているのか、激しい呼吸音を繰り返している。

「と、藤堂先輩…これ、どうゆう事すか…?なんで、空先輩が…」

勇気を振り絞ってそう尋ねたのは、健太と呼ばれた少年だ。
喉がカラカラなのか、何度も息をのんでいる。
目の前の、艶やかな裸体を晒し、男を咥えこんでいる姿は、たとえAVビデオで見た事があったとしても生では初めてだ。
しかも現実に強姦という事を強く思わせるような現場に居合わせたのは、無論の事ながら人生で一度だって経験として無い。
刺激的すぎる光景はなんだかんだ不良をやっていながら、たかが13、14の少年には過激すぎた。

それに―――

彼らにとって坂下 空という存在は、永遠の心のアイドルのようなものだった。
話す事は出来なくても、目の保養となる彼女の存在は女優を見て語るように彼らは入学当時から慕っている。

―――むろん話した事はあった。

空を彼女にしていた先輩がいて、その先輩に紹介してもらった時に初めて3人は話す機会が与えられた。
最初こそ大喜びしていたが、いざとなった時の緊張感を、今でも忘れはしない。
とても彼女を、会話でさえ満足させられない。
そもそも同じ場所に立つのさえ己が恥ずかしいとさえ思ったのだ。
自分には高貴な花だと深く自覚した―――それだというのに…

「なんで…」

健太の眼に、絶望が色濃く広がっていた。
それは後の二人も同じことである。
本来欲情をするべき所であっても、幼い三人には無理な話だった。
とにかく今は逃げ出したい。恐ろしいものを見てしまったという恐怖心。そして―――

「藤堂先輩…!!危ない事じゃないっていったじゃないですか!!なんで、なんで空先輩にこんな酷い事…!!」
「あぁ?酷い?―――さてはお前ビビってんだろう?」

「俺たち、いやです。仕事やりません」
「はぁ?まだなんにも聞いてないだろう?お前らの仕事?五万だぜ?五万。欲しくねぇのか?」

「だってこれ明らか犯罪じゃないっすか!!」
「心配すんなって。お前達にも、あとであの女でセックスさせてやるからよ」

―――いい条件だろう?と、藤堂は楽しそうに笑った。

むろん三人は、それだけで昔の自分を恨みたくなったものだ。
魅力的だとむろん心の端に潜む悪の部分は甘く囁くが、まだ悪になりきれない無知な三人は、それに頷けなかった。
じりじりと、尻込みするように後ろに下がるが、3人の不穏な気配を感じ取ったのか―――いつの間にか壁になるように複数の人の気配がした。

藤堂は笑った。

「お前らもう遅いって。今逃げても、お前ら完璧関係者。俺たちの道連れって訳。その変わりたっぷりと甘い蜜吸わせてやるよ。…じきにお前達は俺に感謝するだろうな。それが分かったなら、男らしく腹くくれ。―――なぁに、友人の弟とその親愛なる友人たちだ。お前らには何にもしねぇよ。…お前らが、不吉なことしなけりゃな」

それは明らかな脅しだった。
逃げようものならば、告げ口をして裏切ろうものなら、覚悟しておけ、と。
三人が震え上がるのは、それだけで十分だった。

「―――ねぇ君たち。なんか彼女と知り合いみたいじゃない?」

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