忍少年と隠忍自重 020
「―――ねぇ君たち。なんか彼女と知り合いみたいじゃない?」
やはり楽しそうな声で、朝倉と呼ばれる主犯格の男は尋ねてきた。
それに三人がびくりと肩を飛び跳ねて、戸惑いを見せる。
「彼女の説得手伝ってくれないかな?『シノブ』のフルネーム。ついでに特徴とかさ、教えてって。そうじゃなきゃお兄さん達、この空っていう可愛い可愛い女の子に酷い事しなきゃならないんだよね。やっぱ花は愛でるもんじゃない?毟るのは可哀想だからさ」
恐怖に声が出ない三人は、無言だった。
それを『否』と判断したのだろう、残念だとばかりに朝倉はため息をついた。
「そっか。それじゃ君達はここで見ててよ」
朝倉が懐から何かを取り出した。
透明なプラスチック製の小さな袋。その中に白い錠剤が3粒入っている。
そのうちの一粒を取り出したかと思うと、性行為を止めている最中―――怯えている空の足もとまで近寄って、にんまりと綺麗に朝倉は笑った。
「―――嫌でも君が正直になれる薬だよ」
「いや…ッ!!」
空のか細い悲鳴に三人が思わず飛び出そうとしたが、それは藤堂の前に諦めるよりほかはなかった。
朝倉は恐怖で歯を震わせる空の顎を掴むと、強引にこじ開けて錠剤を押しこむ。
飲む混む事を拒絶する空に、朝倉は非道にも彼女の鼻と口を押さえた。
「!!」
こくりと飲みこむしかなかった空の顔色はよりっそ悪くなった。
それは薬の効果ではない。
薬の正体を知っているが故、飲み込んでしまった絶望だ。
「い…や…」
空は中に入った男を程よく締め付けてしまう。
「おお」という、歓喜に満ちた声と共に、再び折れそうなほど細い腰を、男が掴む。
「たまんねぇ」
それも白い肌に痕が残りそうなほど、きつく。
そこに配慮という名の『情』など感じもしなかった。
ただ、己の欲望に忠実となった化け物が、空を犯す。
「い……や……」
空の虚ろな目が宙を仰いだ。
そのままカタリと横に向き、呆然としている三人の後輩達を見る。
途端に、びくりと後輩達は戦慄に慄いた様に震えあがった。
空の乾いた唇が、必死に言葉を作る。
「たす、けて……たすけ…―――!!」
子供のような拙い声で。
果たして空が三人を見て、縋っているのかは、虚ろな眼では読みとれない。
もはやどこを見ているかも、分からない。
それでも、三人の後輩たちは、まるで空に助けを求めているような気がしていた。
―――求められ、手を伸ばしている相手がいるというのに、三人は微動も出来ず、ただ呆然としている事しか出来なかった。
無力な自分。
卑怯な自分。
無情な現場が、三人の若者たちに幾重もの苦しみを与え続けた。
―――それは、彼らにとっても拷問だった。
そして、狂った宴会は開かれる。
空が自白を始めるまでそう時間はかからなかった。
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