忍少年と隠忍自重 015

◇ ◇ ◇

リンリンと我が家の黒電話が鳴り響く。
忍は帰ってきて早々の電話に出るため、早足で玄関前まで駆ける。
受話器を取り、忍は耳に当てた。

「もしもし。白取です」
「今『珠子中学』辺りにいる。茶ぁ用意して待ってろ」

ガチャッと勝手に音がして切れ、最後はツーツーと空しい音が連子する。

「…」

一方的に電話を切られた忍はしばらく呆然としていた。
そして一分と経たない内に再び黒電話が鳴り出した。
忍は無言で受話器を取る。
顔はそれこそ恐ろしいほどの無表情。まるで何事もなかった事にしたような、そんな顔。
しかし声だけは、どう配慮しても抑えられるものではなかった。

「―――もしもし」

低い忍の声。
しかしそれに構わず相手は言った。

「今お前んちに繋がる道まで来た。茶だけじゃねぇ。菓子ぐらい用意しておけよ」

プツンッと、再び音信不通。
ツーツーツーという音を聞きながら、忍は再び無言のまま受話器を静かに置いた。

「…」

忍はそくさと玄関まで行くと、鍵を閉める。
それから窓という窓の鍵を閉め、外側から人が入れないよう万全の体制を整えた。

そして再び電話。

「もしも―――…」
「今お前んちの前にいる。何鍵なんか閉めてやがる。さっさと出迎えろ」

「すみません。どちら様でしょうか?」
「馬鹿言うなよ、忍。何白々しい事言ってやがる。俺がお前んちの番号を調べられないと思ったか」

「何のことでしょう?忍…ですか?―――生憎うちにはそのような名前の者はおりません。かけ間違いじゃありませんか?」
「おい」

「おやおや、やはりかけ間違いですね。―――人間、間違えはよくある事ですからお気になさらず。それでは失礼します」
「お―――」

受話器を置き、玄関の扉のくもりガラスに人影がある事を確認した忍は気配を悟られないよう、ゆっくりと室内に入っていく。
そのまま諦めて帰ってくれればいいのだが。
とにかく普段着に着替えようと忍は二階へと上がった。

再びなり始めた黒電話を無視して―――

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