忍少年と隠忍自重 007

「もう分かったわっ!!」

忍は引き剥がすようにして無理やりその場から脱出した。
ぜぇぜぇと肩を上下に揺らし、忍は顔を真っ赤にしながら校門に向かって指をさした。
若干メガネがずり落ちそうで、わずかに感情的になった黒目が宗助<クロガネ>を睨んでいる。

「分かったから、おたくの学校へはよう行きぃ!!」

らしくもなく、動揺したように叫ぶ忍に、宗助<クロガネ>は背筋を伸ばして見せた。
怒鳴られていても、そんな顔を赤くして言われてしまえば微笑みたくもなる。

「はいっ!!行ってきます!!シノさんも頑張ってください!!」

宗助<クロガネ>は小さなカイロを握りしめて、校門ではなく横の柵(忍と同じぐらいの高さがある)を難なく飛び越えた。

「きゃ!!」

その際、タイミング悪く登校してきた女子中学生が、それを目撃し、柵から降ってきた美丈夫を見て目を丸くする。
しかし驚きよりも感激が上回ったのか―――その眼差しには媚びた艶のようなものが含まれていた。

「あ…」

宗助<クロガネ>はその女子中学生を軽く一瞥すると、まるで何事もなかったように反対方に向かって走っていく。
忍はやばいと、隠れて様子を窺う。その女子中学生の横顔は少し紅潮し、消え去ったクロガネの後姿を見送っている。
右手に持った携帯(ストラップが多い。携帯より重そうだ)から、少女の甲高い声が聞こえた。
どうやら電話中だったようだ。

『ミユキっ!?みーゆーきぃい??どうしたの?』

しばらく放心したように立ち尽くしていた女子中学生は、その声に我に帰り、「あぁああ!?」と奇妙な声を上げて携帯の受話口に耳を傾けた。
だが、未だ宗助<クロガネ>が去って行った方向を見続けている。

「い、今すんげぇイケメン見た…」

相手が何か訪ねてきたようだ。
女子中学生は興奮気味に、大声を張ってそれに答える。

「ほんとだって!すんげぇ背ぇ高くて…あれ、軽く2mあんじゃない?ほんとだって!!2mは大げさかもしれないけど…。ちょー彫り深かった…。ちょこっとした見えなかったけど、あれさ、絶対ミユキが見てきた中でも相当カッコイイ分類だって〜」

ウェーブのかかった茶色の長髪を指先で巻きながら。

「なんかちょー慌ててたけど。―――あんたと同じ百々島中学の制服着てた!!…え〜、すんごい、いい男だったぁ〜。なんか『近寄るな』オーラが出てて、意地でも落としたくなるタイプ」

少し甘えた声で、その女子中学生は甘くため息を零した。
ようやくその時点でくるりと学校の方へ向いて、ゆっくりと上機嫌そうに歩きだす。
今にもスキップをしそうな後姿である。
息を殺していた忍はようやくそこで肩の緊張を解いた。
そしてげっそりと生気を奪われたように肩を落とした。

(つ、疲れたわ…)

しかし今は昼休みだ。
そこへ登校してくるなど、この女子中学生は一体何をしに来たのやら。
そしてちょうどタイミングよく、昼休みを終了するチャイムが鳴り響いた。
忍は急いで教室に戻るべく、走りだす。
その際、忍はしみじみ思ったものである。

(やっぱり、くろすけはイケメンさんの分類なんやなぁ…)

分かってはいたが、あの犬のような懐きようを見ていると、カッコいいというよりも『愛らしい』と言った方が似合っているような気がしてならない。
しかし、もしもそんな事を言ってみようものならば、誰も彼もに大笑いされる事を忍は知らなかった。

―――『あの』クロガネを『愛らしい』など、お前の気は狂っているのか?と…


その日、『百々島中学』では、目を疑うような光景がその教室にはあった。
なんでも、あの平沢 宗助<クロガネ>がまじめに机に座り、事もあろうに数学とにらめっこをしていたものだから、生徒又は教師達は明日吹雪にでもなるではないかと、本気で危惧したらしい事は、忍の知る所に及ばすだった。


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