忍少年と碧血丹心 092

忍は不満で不思議でしょうがなかった。
今日の出来事の中で一番理解出来ないのはこの事である。

本日―――一度だって忍は『男』として扱われていない。
一度も、だ。

なんだ。なんなのだ。
下の物を見せたって、何故『女』みたく組み敷かれる?

何故男なのに男として認められていない?

屈辱的な一日を振り返る度、ふつふつと込み上げるのは怒りを通り越した達観。

ふいに、忍の脳裏に『Pandra』にいた可愛らしくとも悪魔のような笑みを零す少年…いや、青年か。
『ナオ』の言葉が蘇る。

―――こういう時は行動で証明しなくちゃ。徹底的な証拠を見せ付けるんだよ

そうだ、それは良い手だ。

―――『俺は男だぁ』ってねっ

「捕まえたぞ」

そう言って、二の腕に与えられる熱量。
忍はそれを他人事のように見ていた。

―――捕まえた…?

(誰を?)

この男は本気で捕まえたとでも思っているのだろうか?

これはどう見ても『捕まえた』のではなく、腕を『掴んだだけ』だ。
途端におかしくなった。
愉快で愉快で、同時に込み上げてくるのは怒りではない。

自分を『女』として見ているこの男を心底不憫に思ったのである。

「―――触んなよ。下郎が」

横から二の腕を掴む男―――まるで冷水でもぶっかけられたような、仰天したような顔があまりにもみじめで。

言ておくと、忍は今、とても絶好調なのだ。

―――しかも相手が小物と来れば、なんてことはない。

あの俺様一族に比べれば、ちっとも苦難な事態ではないのだ。
呆けたように未だ腕を掴む相手。
忍は振り払うように、背丈のあるその男の手首を掴むと、それを外側に向かって捻ってやった。

「い“ぃっ!?」

思わぬ反撃に目を向いた男は、痛みを和らげようと反射的に体が傾き、その力を借りて忍は男を崩して投げる。
男はあっけなくコンクリートの地面に仰向けで転がり、じくじくと痛む片手を庇うように片手で覆っていた。

何故忍よりも大きい自分が倒れてしまったのか―――それを理解出来ず、男は茫然としている。

「…な…なな…!!」

それは小手返しという合気道の技である。
基本中の基本として知られているそれは、忍のように小柄な者にとって大を制するのに都合が良い。

―――押されれば引き、引けば押す

自分の力に頼らず、相手の力を糧に技を繰り出すのだ。
いつの間にか、あれだけ熱気に包まれたその場に静寂が訪れていた。
『コウヤ』は意外そうながらどこか楽しそうにつぶやく。

「―――へぇ、ただの愛人じゃなさそうだ」


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