忍少年と碧血丹心 088

「―――『くろすけぇ』。行くでぇ…」
「あ!待って待って!!怒らないでよ〜悪かったって〜」

ふいに、一人の男が―――例のライダースーツを着ている男が前へ乗り出る様に自分を人差し指で指しながら、忍に歩み寄ろうとした。
むろんそれを『クロガネ』が壁として遮ってしまったが。
しかし、男はそれさえ気にならないと言ったように、どこか無邪気とも言える笑顔を忍に見せた。

「あ、僕ちゃん『コウヤ』って言うのよ。『horn』の幹部生してる―――」
「ああ。『シノ』さん、耳と目を塞ぎましょうか。腐っちゃうんで」

「うんげぇ。ひっでぇの。自己紹介もさせてくれない訳か?それに僕ちゃん目に入れても痛くない美形よ?」
「帰りましょう、『シノ』さん」

あくまで、『クロガネ』は自然ともいえる頑な態度で相手を無視し、忍を安心させるような微笑みを見せる。
その微笑みと、弱みを握ったような厭らしい笑みを浮かべる相手とを見比べて、忍は理解した。

『クロガネ』は『Pandra』の人間である。

『Pandra』と言えば、一つのチームみたいなものなのだと誰かが言っていたのを思い出す。
『Pandra』と同じように一つの群れを成し、存在するチーム―――似た類の派閥の一つが彼ら『horn』なのかもしれない。
それならば、この胃がむかむかするような雰囲気が、どことなく似ている事にも納得出来る事だった。

忍に対する『クロガネ』の態度を見て、再びその男は…自らを『僕ちゃん』などと呼ぶ男『コウヤ』は愉快そうに鼻で笑う。
それは心底面白がっている、子供のように無邪気ながら、どこか邪悪な感じのする嫌なものだった。

「なぁ、裏切り者の『クロガネ』。―――お前、本来なら『こっち側』につくべき男だろう…?」
「ほんと、お前もなんであんな宗教みたいなグループにいんだよ。たんなる取り巻き達の集団じゃないか。『王様』は教祖様?―――ああ、奴らの歓声思い出すだけで虫唾が走る。僕ちゃん達が潰してなくなる前に、さっさと乗り換えた方がいいんじゃない?―――お前ならまぁ、昔のよしみだから、すべて水に流して歓迎してやってもいいよ」
「…『シノ』さん、帰りましょう。こんな奴らに構う時間さえ惜しいです」

相手の熱烈な勧誘さえ、零度さえ感じさせる無関心さで、即座に忍の方へ向き直ると、促すように背中を押した。
しかしクロガネの顔には微笑みさえ浮かんではいたが、どうも具合が悪そうな顔をしている。
まるで聞いて欲しくない事を聞かれてしまったような、そんな苦そうな表情を見た気がした。

「おっとと。なぁ、どうせここで会ったのも縁だろう?『王様』の情人僕ちゃん達にも見せてくれよ。―――なぁに、結構好みだから、拝む程度だって」
「へぇ、やっぱ『王様』の色とあって、ずいぶん奇麗な顔してるなぁ」
「名前なんているの?年は?」

じろじろと、珍物でもみるかのように、好奇心に満ちた男の目が四方八方から忍を攻めてくる。
それは帰る意思を強く見せる二人を追い詰めるために、じりじりと―――まるでハイエナが狩りを行っているようだ。
その視線からも忍を守ろうとしてか、『クロガネ』が再び忍を背中に隠して、道端に下がっていくのを、周りは見逃さなかった。

「おいおい、見せるぐらいいいじゃねぇかよ。別に減るもんじゃねぇだろう?」
「そうそう。ちょっと見て、少し触るだけだから。ほら神社の石も触ればご利益あるって言うだろう?それと同じだって」

単に触りたいだけじゃないかよ、とからかうような声がそう笑った。
横から手が伸び、忍を掴もうとしたのを『クロガネ』が腕を横に振り動かしてそれを叩き落とす。

「てめぇらと遊んでる暇は―――」
「『くろすけ』、もうええ」

忍は『クロガネ』の背から自ら出て、前へ出る。
興味深そうに見る、不躾な視線を一身に浴びながらも、忍は彼らに向かって背をぴんと張って声を掛けた。

「―――おたくら、なんかうちらに用でも?…そんなら、はよう済ましておくれやす」

油断さえ見せやしまいと、どこか挑むような忍の赤い炎が、夜を照らすように豪と燃えたように見えた。



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