忍少年と碧血丹心 087

「―――『もん』って。そんじゃ、あんた、『クロガネ』のじゃなくて、『王様』の『女』なの…?」

やはりそう捉えるか―――。
どうせならパシリとか、奴隷とか…そんな想像をしてくれていたら、まだ楽だったというのに。
いや、健全な市民はみんな、最初はそう思うはずなんだが。

忍がなるべく穏やかにそれを否定してやろうとした瞬間だった。
その場に、奇怪な笑い声が響き渡った。
荒涼とも言える、なんとも豪快で不愉快な笑い方である。
しきりに笑って笑って、馬鹿騒ぎを楽しむかのように互いの肩を叩いたりしている連中もいた。
目の前で道を塞ぐ連中が、心底おかしそうに腹を抱えて転げ回りそうな勢いで大笑いだ。
馬鹿にされたような心地に、忍も『クロガネ』も仏帳面のまま口先をへの字に曲げていた。

―――何故、笑われる

よくは分らないが、少なくともあまり良い兆しではない。
見る見るうちに機嫌が悪くなったのは『クロガネ』だった。
犬が歯をむき出しで威嚇するように、射殺さんばかりの殺気で相手組を睥睨している。
彼としては、忍を馬鹿にするような奴らの態度に、心底ご立腹のようだ。

「『シノ』さん、奴らを沈めてきていいですか…?」
「我慢しぃ。ウチも我慢する」

忍には、もはや怒る気力は無い。
ただ、不愉快な連中だと目を細めて、奴らの気が納まるまでを見守っていた。

しきりに笑い終わったのか、満足そうな顔で、最初に忍に話しかけてきたその男は目尻の涙を指先で拭き取った。
蔑視するような眼が忍を見て、興味深そうに笑んでいる。

「こりゃぁまた珍しい!!あの『キング』が男を『恋人』にしてるってか?」
「いやいや、確かに奇麗な顔してるけどさ、単なるセフレでしょう?どう考えたってあいつが好きなのは胸の膨らんだ女なんだからさ」
「お前もご苦労な事だな。『王様』の愛人の世話なんて」
「お前の恋なら応援してやろうと思ったけどさぁ〜。あの『王様』の青春なんてさ〜」
「ヒヒッ!!腹痛ぇ〜」

下品な笑い声が、押し隠すように漏れて聞こえる。
笑うのを堪えているような―――けれどそれが堪え切れなかったようなそれ。

ぴくりと、わずかに忍の片眉が動いた。

どいつもこいつもと、忍の中にむくむくと苛立ちだけが育ち始める。
普段ならば穏便に済ませようと、明らかな挑発にさえつっかからない忍だが、今日とでは訳が違う。

本日4回目の侮辱である。

「―――『くろすけぇ』。行くでぇ…」


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