忍少年と碧血丹心 085

「―――ちっ。よりによってこいつらかよ…」

忌々しそうにそう呟き、何とも不都合だと言いたげに『クロガネ』が舌打ちをした。
いつになく彼が緊張しているのは恐らく背後に隠して守る忍の存在が大きいのだろう。
いくつもの視線が興味深そうにこちらを見つめる。
その視線の執着具合は並みならぬものを感じ、これは逃れられないのだと忍は悟った。

…むろん悟った。
けれどー――

「『くろすけ』…。彼らとは知り合い?…出来るなら俺は早く帰りたいと思うんだ。彼らは道を譲ってくれるかな…」

『クロガネ』というあだ名と『宗助』という本名を混ぜ合わせたそれ。
本名は呼ぶべきではない。だが『キング』がつけた『クロガネ』という名も気に食わない。
だから『クロガネ』がそうしたように、忍も自分で作って呼んでみた。

それを彼が認識してくれるように、だ。

「は、はい」

一瞬、『クロガネ』の毒気が抜け、素に戻った彼が忍に視線を寄こした―――が、現状を思い出したのか、直ぐに周りを威嚇するように睥睨する。

「…ちょっと、それは無理そうです」

忍達を取り囲むように騒音を立てるバイクが次々に停車し、男達が降りてくる。
バイクの置き方も、忍達が容易に逃げ出さないように囲って、だ。
その時点で一悶着は免れないと分かる。

静寂に包まれた夜がお祭りのように盛り上がり始めた。
対向車線にまではみ出た駐車は見ていて心地いものではなく、まるでこの公共の場所を己の陣地とばかりに我が物顔する連中に、心底忍は嫌悪した。

ヘルメットをかぶって居る者はそれを取り、ゴーグルをつけている者はそれをひっぺがえす。
そうして各面々の顔ぶれが露となったのだが、こちらもずいぶん印象的な男達が勢ぞろいしたものである。
まさにチャラ男にふさわしい、そんな身なりの者もいれば、ホストさながらの容姿をした者もいた。

―――共通しているのは、奴らに対してはいい第一印象ではないという事だ。

どこか見下している風が忍には、『Pandra』の人間を思い出させる。そして同じ匂いを感じ取っていた。

「おい『クロガネ』〜。背中にいる子見せてよ〜。そんな隠しちゃってさぁ」
「可愛いもんだよねぇ。怯えてるの〜?」

特に忍には、何故かにやにやと嘗め回すような視線を送り、何か意味合い深い眼で凝視してくるのだ。
見られる方は心地よいものではない。

視線に蜂の巣にされるなど、もうたくさんだ。

「―――ああ…しんどいわぁ…」

たった一日で頬をげっそりと削られたような疲労感に、忍はそんな事を呟いた。

ほとんど半眼で、うな垂れている忍の打ちひしがれ様に『クロガネ』は、忍を慰める策も言葉も見当たらず、ただ黙って彼に同情するしかない。
本日の忍に降りかかった災難は、それこそ一生分の困難を一気に被ったような禍ようである。

ふいに、目の前で面白そうに笑っている一人が、忍を見てこんな事を言った。

「―――君、今ものすんごい噂になってるよ…?」

忍は思いっきり眉を寄せた。

―――…噂?



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