忍少年と碧血丹心 080

髪の紐は完全に解けて、畳み一面に鴉色の髪が広がっている。
露になった胸を荒々しく上下させながら、忍は両腕を交差させ、自分の目元を隠した。

(し、信じられへん…っ!!)

いろんな感情がぐるぐると怒涛のように頭の中を駆け巡り、忍に訳の分からない気分にさせる。
混乱して混乱して、色んな色が混ざり合って、既に最初の色がなんだったのか―――それが分からなくなっていた。
そして、更に忍に追い討ちをかけるように―――息を荒くさせる忍の、まだ開花さえしていない最奥を指先で撫でる。

「…!!」

伏せて隠しながらも、その絶対の意思を含んだ両目が見開き、瞳が大きく潤んだ。
凍りつくように、桃色に染まっていた顔が青くなる。
大きな瞳がよりいっそ大きく開かれ、翔との接吻により濡れた唇がわなわなと震え始めた。

「…はぁ…っ!!」

本当にゆっくりと、忍が視線を降ろすが、翔の金髪しか見えない。
だが、確かに本来排泄として使うはずの場所に異物が入り込んでいた。
小さく悲鳴を上げている身体の声に、忍の血相は段々変わっていく。
忍はそれを意識した途端、纏っていた仮面が崩れ去ったようにその表情に恐怖を濃く滲み出した。

「い…っ!!」
「―――狭ぇ…。なんだ、あいつにはまだ使わせていないのか」

どこか嬉しげに小さく、そう呟く翔。
体を強張らせた忍に、痛みよりも快楽を与えるように、胸の突起に口付ける。
撓え始めた忍の雄を扱きながらも、器用に一本の指を狭い内部に入り込んでいく。
むろん滑り込みやすくするために、忍が零した『それ』を使って、だ。
余裕を完全に無くした忍の顔色の悪さは予想以上だった。
まるで自分の寿命を宣告されたような、絶望に染まりきった―――そんな表情だ。

「い”…や、やぁ”…っ!!」

忍の中に、既に余裕など一欠けらも残っていない。
理性も、境界線を越えて、色々なものが彼の何かを崩し始める。
一度崩れればその衝撃は忍に不吉な影をもたらした。

追い込まれたシープ<羊>は時に頭角を見せる事を、この男は真の意味で理解していない。

痙攣していると分かる指先が、翔の髪を掴んだ。
それはあまりにも白く―――しかし、無駄に力が篭っていると分かる。
渾身の力を振り絞ったそれに、既に欲情に猛烈な色気を放つ顔が、名残惜しげに胸に与えていた愛撫を止めて持ち上がった。

「…」

それでも指先だけは、忍の液を絡めて小さく呼吸をする後孔へと侵略を続けている。
まるで何かを探しているようなその指―――忍に猛烈な吐き気を促すだけのそれを嫌悪して、益々眉間に皺が増えた。
死人の様な顔をする忍の顔を翔が覗き込んだ時、空ろにも近い忍の赤目が今までに無い焔の色を写していた。

「―――あんたとのセックスなんてなんも感じんわ…っ!!」

拒絶の言葉に、翔の指がぴたりと動きを静止させた。
歯を食いしばる忍の口から、掠れて消えそうな声が絶対零度を含んで、恨みの言葉を紡いだ。

「精々うちのおいど(尻)に突っ込んで、あんただけで善がりぃ…!!うちは悲鳴も甘っちょるい声も出さん。あんたの耳ん中で恨み言唱えたるっ。ほんで最後、あんたによう言ったるわ…っ!!『ちぃとも良ぉなかった』ってなぁ…っ!!」

それが人のプライドを傷つけようとする不届き者への、最大の復讐である。
テクニシャンであるはずの翔の力量を存分に馬鹿にしてやると、忍は宣言したのだ。
息も絶え絶えで、呼吸をするように紡がれた言葉を、聞き逃す事無く聞いていた翔が、突然と風船でも耳元で割れたような―――そんな驚きの表情へと変化した。
しかしそれも直ぐに、まるで猛獣が唸っているように歯を食いしばり、怒り狂っているのか、それとも何か羞恥にかられた出来事でも起こったのか、顔が赤くなっていく。
青筋を立てて眼に角を立てた翔に、一度でも触れてしまえば、それは導火線に火をつける事になるだろう。

「てんめぇ…あいつの下では素直に喘いでたってのに、俺の時には激しく吠えるってか。―――なんならお望み通りレイプしてやるよ。お前の尻の穴を血で染めて、俺を忘れないよう、深く刻みこんでやろうじゃねぇか…っ!!」
「っ!?」


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