忍少年と碧血丹心 076

「―――ぁっ…っ!!」

呼吸の方法を一瞬忘れてしまうほどのそれを、忍が快楽だと実感するのに数秒を費やした。
何かから開放されるような衝撃は、絶望を吐き出した。
覚えのあるその感覚に、忍は息を荒げながら羞恥のあまり上げられない顔を畳みに押し付ける。

「はぁ…はぁ…っ!!」
「―――随分出しやがったなぁ。自分で抜いてなかったのか」

力んでいた体から力が抜けて、崩れそうになったのを腹に腕を回していた薩摩によって支えられる。
口から漏れたのは、明らかに熱が篭った忍の吐息だった。
朦朧とする意識の中で、忍が見たものは、自分が吐き出してしまった精液が畳みだけでなく自分の衣類にもべったりとついてしまっている光景である。

「っ…!!」

恥ずかしすぎて何も言葉が出てこない。
罵ってやりたいというのに、それさえも出来ないもどかしさに忍は責めるように畳に押し付けた視線を後ろの薩摩に投げつけて、睨む事しか出来なかった。

なんて事をしてくれた!!

しかし、忍の自尊心を傷つけるように、薩摩は指先についた忍のそれを、生き物のように動く舌が唇から覗き、丁寧に舐めとる。
『キング』が―――翔が見ている目の前で、だ。

かっと、顔が赤くなるのを自覚する。

「あ…っ!!あ、ああああああんた…っ!!」

これほど狼狽している忍の様子が可笑しかったのか、薩摩は人の悪そうな笑みを浮かべて、ちらりと翔の方へ視線を投げた。
ぎくりと、忍もその軌跡を追うように、ゆっくりと視線を翔に向けた途端、はっと息を飲み込んでしまう。
忍は奴が意地悪そうに笑みを浮かべながら、まるで客さながらにこの不幸とも言える状態を楽しむように見ているかと、そう思っていたのだ。
しかし、実際その眼でみてどうだろうか。

淡々と目視している翔の金色の瞳―――それが食い入るように、自分を見ていた。

何かを訴えるように熱く、強く―――冷笑もなく、余裕さえなさそうな顔が忍だけをその眼に写している。
視線が交じり合った瞬間、翔が僅かに、まるで呼吸が苦しそうに、柳眉を寄せて眼を細めたのだ。

痛々しそうに、悔しそうに、もどかしそうに。
耐えて、忍んでいる。

忍には…決断力も理性も吹っ飛びかけた忍の目には、そう映った。

何故お前が―――

(そないな顔をする)

忍は唇を噛み締めた。

見るなと、そう叫びたかった。
まるで同情でもされている気分だった。

しかし忍は知らなかった。
忍以上に、翔の方こそが煮えくり返るような激昂を抱えていた事など。


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