忍少年と碧血丹心 074

「複数プレイが最近の趣向なんだろう…?俺としては熟れ時のうまいもんを共に楽しむのも悪くねぇ」

忍は我が耳を―――いや、薩摩の言葉を疑った。

今奴は何と言った…?

(なにを言ぃよった?!)

寝ぼけた顔に冷水をぶっ掛けられたような心地である。

「男である事が難儀だが、女のように肌はしっとりしてるぜ…?締まり具合も男が病み付きになっちまいそうな極上だろうよ」
「何アホな事言ぅてるん…っ!!」

厭らしく頬を撫でる薩摩の角張った手を邪険に振り払う事も適わないまま、忍は嫌がらるように顔を背けた時だ。
『キング』の表情は今だ背筋を凍らせるほどの冷気さえ纏って、こちらを見つめている事に気づく。

(…?)

こちらから窺っても読めない『キング』の睥睨する眼に、自ずと体が硬直するのを忍は知った。
いつもと雰囲気が違う『キング』から感情が読み取れないのだ。
ゆっくりと外を遮断するように、『キング』は背中に両手を回し、障子を閉める。
忍の体と頭を冷やした風が絶たれ、再び室内に温暖な環境へと変化した。

長々と漂う沈黙を打ち破ったのは、『キング』の一声だった。

「―――あんたのお零れ預かるほど、俺は相手に困っちゃいねぇよ」

薩摩が密着していた体を離した途端、ここぞとばかりに忍はすばやく脱げかけた衣類を正す。―――と言っても緊急処置だけだが。
自分の事で精一杯だった忍は、思わぬ好機に安堵の溜め息を零した。
だからこそ、その様を、『キング』がただ黙って見ていた事に気づけなかった。

金色を宿した瞳に雄の獣を潜ませていた事も。

その視線がどこか熱に浮かれたように強かった事も。

「―――隣の部屋にでも待ってろ。…何か用があって来たんだろう?でなけりゃ、『坊』から連絡なんざ、入る訳がねぇからな」
「ああ。用がある。今ここで、必要な『用』だ」

薩摩もこの微妙な変化に少し怪訝そうに、一瞬だけ目を細めた。
しかし、その続きを促すように、薩摩は相手を弾圧するような強い眼で『キング』を凝視する。

「…なに切羽詰まったような暗い顔してやがる。てめぇと腹割って話すような用はねぇだろうよ」

今は邪魔をしてくれてまで話す事は何も無い―――薩摩がそう邪険そうに棘を含んで言うが、『キング』はそれに臆する事無く、退かなかった。
『鬼』をからかうように、けれど真剣を帯びた声音で笑みを湛えた。

「『叔父貴』。そいつに最初に眼ぇつけたのはあんただろうよ。だが手ぇ出したのは俺が最初だぜ…?それは俺の獲物だ」


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