忍少年と碧血丹心 061

「―――連れて行くつもりならばそうすればいい。俺は元より覚悟の上で『外』に出たんですから」
「…むざむざ捕まると分かっていながらか。しかもそれが自分にどんな風に返ってくるのかさえ分かっているとすれば、随分頭の悪い事をしたな…。自分で自分の首を絞める事になった」

「さぁどうでしょう。今や最低な不純物だと分かった俺が『あの方』に近づくなど、あの一族が…弟が許しはしないでしょうから…」
「だがその弟殿に捕まるのも厄介だろう。―――それはてめぇが一番分かってる事なんじゃねぇか」

秘密事でも語るように薩摩の声は低く掠れていた。
何かを含んだ物言いに、忍は眼を細める。
薩摩の心の内を探るように見つめるが、彼はただ意味の深い弧を形の良い唇に乗せるのみだ。

「…。あなたは、どこまで知っているんです」
「さぁな。だがてめぇが失踪する直前にも、1週間近く行方不明になった事は知っている」

「…」
「『何があった』なんざぁ野暮な事は聞きやしねぇよ。だが、てめぇも見つかることを望んでないと踏んで、俺は2年近く見てみぬ振りをしてきた」

「―――まるで俺のために、とでもおっしゃっているように聞こえるんですが…?」

薩摩は笑みを更に深めた。
それは獰猛とも言える、何かを企んだものだった。
薩摩は忍の問いかけに答える事は無く、手を伸ばす。

「…っ!!」
「動くな」

凄みを帯びた『鬼神』の威圧感。
雷に打たれたように、体どころか首さえ回らない。
鳥肌が立つような殺気の前に、思わず体を竦ませた。
後ろに退歩すればよいだけの話だが、そんな考えすら思いつかないほどの怯みに、忍は眼を瞑らないのが精々だった。

右の視界から入り、消えた薩摩の手。

途端に、いつも涼しげな笑みを浮かべる薩摩が一瞬だけ剣呑になった事を忍は見逃した。
忍は一体何をされているのかを最後まで理解出来ないまま、彼の手が引っ込むのを息を呑んで凝視する。

「一体なんなんですか」
「―――…いや」

「はぁ?」

ますます首を傾げてしまう事態だ。
それでも説明の一切も無く、黙り込んでしまった薩摩は直ぐに話題を変えてきた。
忍を呼んだ本来の目的を、薩摩は話し始める。

「―――てめぇはあのボロ屋敷にまだ居座りたいか」

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