忍少年と碧血丹心 058

「若女将。申し訳ありませんが、もう少しこの料亭は貸切にしていただけますか?酒も料理ももう十分なので、従業員の方々にはお休みになっていただいてよろしいですよ。夜分遅くに叩き起こしてしまって申し訳ありませんね。―――この貸しはきっちり払わせいただきましょう。むろんそれ相当の、ね。…よろしいでしょうか?」

有無も言わせない物言いに、若女将は無言のまま、まるで機械のように感情の無いまま土下座の姿勢で頭を下げた。
それは沈黙による肯定―――
つまり、未成年である忍がこのような時間帯に現れ、これから何が起ころうとも他言しない事を了承したのだ。

「どうぞごゆっくり…」

女将は忍に目もくれる事無く、背を向けて元来た道を退散し始める。
彼女からしてみれば、こんな人気の無い深夜にこのように和服を装い、そして顔の整った忍はどんな風に写ったことだろう。

そしてその場に人気は無くなった。

冬の初めの、深夜の臭いと寒さ。そして部屋から漂う不可解な匂いと暑さ。
その狭間に立つ忍を、それこそ獲物を得た猛獣にように薩摩は声を押し殺して笑った。

「―――ずいぶん共通語が上手くなったものです。…確かあなたが本家から逃げ出して、もう2年近く経ちますからね。都会の泥臭さに染まっても可笑しくはないのでしょう」
「…その敬語、やめてもらえませんか。胃がむかむかしてきます」

「人の事を言える立場では無いと思ったのですがね…?」

僅かに、薩摩の目に否定を許さない眼光が宿った。
低く唸るような声音、膝さえ笑いそうになる威圧感。
薄く弧を描き、微笑する様子は見る者をぞっとさせる。

薩摩は己の盃を掲げて、黙り込む忍に命じた。

「―――来いよ。今宵は酒がうまくてしょうがない。俺の相手をしろ」

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