忍少年と碧血丹心 053

「『サツ』<警察>のネットワークにハッキングして情報を収集したり、人から人へ情報を売ったりするのが俺の仕事。その腕を見込まれて今は雇ってもらってる訳なのさぁ。龍ならともかく、俺の場合は『極道者』かと尋ねられたらそれはそれで困るんだけど、けど間違いなく組の正式な組員ではあるんだよ〜。まぁ、まだ盃事を交わしてあまり時間の経っていない、新米の青二才で、どっかの会長だなんてそんな大層なもんじゃないんだけど。うーん?俺達は結構フリーダムに仕事させてもらって、『あの人』の側近みたいな事してるんだよねぇ。それで龍はさぁ、喧嘩こそ『pandora』さんみたく化け物並に強い訳じゃないんだけど、『処理』係としての腕が買われて―――」
「―――祥。もうしゃべるなって…。動かすのは手だけでいいだろ」

少し呆れを含ませた龍郎の呼びかけに、祥は軽く肩を竦めて口を閉ざした。
手が動くと口も動くんだよ―――との言葉も、もはや誰も相槌を打ってくれる者など無いと、彼自身にも分かっていたのだろう。
今の忍の気が立っている事を察してか―――あれだけ騒がしい二人も今は随分と静かなものとなった。

繁華街で時々どこかの誰かに、避けられていたのは、どうやら気のせいではなかったらしい。
同じく『世界』を共通する者達―――つまり『組』こそ違うが同じ極道者だったようで、顔を見ただけで分が悪いと逃げ出すぐらい、この二人は有名なようだった。

それとも彼ら二人のバックにいる『組』に恐れをなしていたのか―――
軽率な印象が強い彼らも、見かけに反して立派な極道者である事には間違いないようだ。

―――しかし、泣く子も黙る極道者が、(気の強い)子供一人の顔色を恐る恐る窺っている様子はどこか可笑しかったが。

鼻につくのはタバコの香り。
耳に聞こえるBGMは、不規則ながら機械的に聞こえる、キーボードを叩く音だけ。
窓の外を覗こうにも黒いフェルターが覆いかぶさっていて、どの道を走っているのかさえ分からない。
その上、両脇には守る…というよりも逃がさないようにと、男達が忍を挟むように座っていた。
今更ながら紹介するとすれば、右に金髪の男『龍郎』、左側には自前のノートPCを弄くっている『祥』がいる。

目の前の運転席には、黒いスーツを着た中年の男がこちらに振り向きもせず、黙してハンドルを握っていた。
サラリーマンを連想させてしまいそうなその男もまた、彼らと同じく極道者なのだろう。
眼にちらついたその男の左手―――その小指が無い事を見ると、尚更そうとしか見えない。

「…」
「…」
「…コホン」

これからどうなるかなど忍に分かる訳が無く、ただその目的地が間違いなく『彼』の元へ向かっている事だけを知っている。
心を緊めようとしているのか―――ぴんと背筋を伸ばす忍の姿勢は綺麗なものだった。
そして、口元を一直線に結び、隙させ見せようとしない雰囲気は近寄りがたいオーラをひしひしと放っている。

緩んだ隙間すらなく、緊迫した忍の面持ちはあまりにも深刻だ。

それを横目で確かめて、ひっそりとばれないように溜め息を零したのは龍郎だった。
窓際の台に肘を立て、その手の平に顎を乗せて外を見る振りをしてはいるが、こうやって何度も微動だしない忍の様子を窺っていた。
それは決して義務であるからという訳でもなく、心底忍を案じているようにも見える。

―――忍は決してそれに視線を向ける事はしなかったが…

しかし何度もそうやって視線を送っていれば、忍とて気にならないはずがない。
むしろ、あえて気づかない振りをしていたようだが、何度目かの視線に忍は目線させ寄越す事無く、少し低く落とした声音が彼に問いかけた。

「―――一体何時から俺を狙っていたんです。偶然を装って待ち伏せをするには、あまりにも偶然が重なり過ぎでしょう」

居場所といい、タイミングといい―――

何もかもがシナリオ通りに動かされたような錯覚に、忍の片眉が少し釣りあがった。
同時に、祥が打っていたキーボードの音がぴたりと止まる。
完全な静寂の中、緊迫した空気だけが相変わらず。

しかしその空気をぶち壊したのは、陽気さえ思える祥の声だった。

「―――『最初』からだよ〜。本当に始まりの始まりからさ」


line
-53-

[back] [next]

[top] >[menu]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -