忍少年と碧血丹心 041

「あ…と…っ。いや、それは別の話で…」
「…」

しかし忍は、これ以上問い詰めるような真似はしなかった。
ただ疲れたようにそっと溜め息をつき、渡さないとばかりに両肩を掴んで離さない『クロガネ』を見上げた。
今だ唸り声さえ聞こえてきそうなほど男達に敵意を向け、まったく忍が視線を向けている事さえ気づかない相手に、声をかける。

「―――あなたは『Pandra』の方ですよね?」

まさか忍から声をかけてくれるとは思わなかったのだろう。
一度は狂気に満ちたその眼が瞬く間に子供っぽく目を丸くしたかと思うと、それはそれは嬉しそうに微笑んだのである。
まさに一転―――眩しいともいえる無邪気なそれに、忍こそ驚いたが、それを表に出す事はしなかった。

「はい。『シノ』さん。あなたを家まで送るために来たんです。俺がしっかりお守りしますので、安心して下さい。あんな雑魚、俺が直ぐに蹴散らすんで、退屈するとは思いますが、少し待っていて下さい」
「え?し、シノ……?」

―――…。…『シノ』さん?

なんて気になる呼び方だ。
というか、そんな眩しいほど輝いた笑顔で、そんな物騒な事を言うもんではない。
腹黒いとは違うが、清楚そうな子が毒舌だった衝撃のように、ぞっとするような恐ろしさを感じた。

それよりも、今この『クロガネ』は自分を送るために来たと言った。

かなり都合の良い方向へ考えると、あの男が気を利かせたとでもいうのか。
むしろユウジが遣いとして寄越したと考えた方が自然な気がしてならない。
一応、忍は尋ねて見る事にした。

「一体誰に頼まれてそんな事を?」
「むろん『キング』からです。基本、俺は『キング』の指示にしか従いませんから」

「―――そうですか…」

途端に忍の眼に絶対零度の熱さが宿った。
忍は穏やかに微笑んではいたが、冷ややかとも見て取れるほど両目を細めた。

「―――申し訳ないんですけど…」

何気なく、けれど否定の意味を含まないような穏やかな手つきで、肩を支える手を追い払った。
決して痛かったとかそんな事は無かったのだろうが、『クロガネ』は戸惑いつつもその両手を離して忍を解放する。
真っ向から『クロガネ』と対峙する形を取って、忍は彼を見上げた。
その際、肩に掛かっていたジャケットを脱ぎ、それを押し付けるように『クロガネ』に返す。
それを半ば強制的に受け取る事となった『クロガネ』は思わぬ反応に戸惑い、呆然と忍を見下ろしていた。

―――何故…

そう言いたそうな顔は、面白いぐらい愕然していて。

「ご足労お掛けしましたが、どうぞお帰り下さって構いませんよ。俺は俺で帰れますから。―――なんせ俺にはあの2人がついてます」

それに目を剥いて驚愕したのは『クロガネ』だけではない。
忍の後ろで守られるように潜んでいる二人の男も含んで、だ―――

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