忍少年と碧血丹心 027

「せっかく綺麗な体をしているのに、それをこんな最低な男どもがいる場所で晒すなんてもったいない。それに、わざわざ自分の価値を下げるような事をするもんじゃないよ…?」

その変化に空ちゃんは一瞬だけ手を止めたが、そんな言葉の雨すら届かないとばかりに、にっこりと笑う。

「なぁに?説教…?」

忍を嘲笑うかのように、ついにその唇は押し付けられた。
忍の唇は薄くてそれでも柔らかい―――けれど、冷たいそれに、空ちゃんの腫れぼったい唇が覆う。
それは挨拶代わりとでも言うように軽く、リップ音だけを響かせて離れていった。
そこに愛情の欠片も労わるような優しさも無い。
口と口を合わせるだけの―――単なる接吻だ。
忍は顔をしかめて、心底嫌そうに嘯く。

「俺は自分を大切にしない子は嫌いだな…」
「空は忍君みたいな子、好きだよー。だって綺麗で格好いいんだもん」

「空ちゃん、君は後悔するよ。本当に好きな人が出来た時―――君は後悔する。これは断言できる事だ」
「うるさないぁ、もう…」

再びその口を塞ぐように合わさった唇。
これ以上しゃべらせまいと、その勢力すら奪うように舌を入れて貪っていたが、突然『空ちゃん』の露出した肩が大きく跳ね飛んだ。
見れば蕩けていたはずの目が見開き、口の中で悲鳴を上げながら無我夢中で逃げるように離れた。

唇を片手で押さえて、肩を震わせながら半泣きである。

「いっひぁ〜い…!!」

目尻にはしっかりと涙が浮かんでいた。
周りで事を見守っていた男達はそれだけで状況を悟ると、心底気の毒そうに顔をしかめながらも、忍の屁にもならない抵抗を嘲笑った。
これから一体自分の身にどんな恐怖と快楽が襲うのか知りもせずに―――…
既にその脳裏では、忍が荒れ狂うが如く乱れ、懇願し、泣き叫び、快楽に染まるのを必死に耐えながらも悶える、身勝手な醜態を誰もが思い浮かべてそれを楽しんでいた。

「ひっでえの…」
「空ちゃん。止めとけ。キスは我慢」
「あーん…っ!!もう最悪っ!!!」

怒り心頭とばかりに目を吊りあげて、空ちゃんは語尾を強めると同時に、忍の頬を勢いよく張り飛ばす。

―――パァアンッ

その甲高い音が天井の高い空間に響き渡る。
忍の白い頬は赤く染まり、痛みに眉を寄せた。

「…っ」

『空ちゃん』の尖った爪先に引っ掛かり、噤んでいた忍の口端はぱっかりと剃刀で切ったかのように、破けた皮膚から血が流れる。
両腕を掴む男がそれを覗き込んで、同情するように顔を顰めた。

「あちゃー、痛そー…」
「まぁ自業自得でしょ」
「おい、あんたも楽しめばいいだけの話だろう?こんな美女が相手にしてくれてるのに…」

にやにやと、他人事であるとばかりに男達は言いたい放題だ。
責任感の欠片すらなさそうな、いい加減な態度に忍の態度は一変―――表が裏にひっくり返ったように、人が変わって獣のように低く呻いた。

「―――あんたらいい加減にしぃや。女子<おなご>晒しもんにして、何様か…?ほんまにここの王様によう似とるわ。自分勝手のいがんだ<歪んだ>連中や」

一人一人の顔を刻み込むように、忍の視線が周りを見渡した。
それは冷ややかな絶対零度。
まるでメデューサとでも遭遇したように、睨まれた者達は石の様に動かなくなってしまう。
その中で、忍を抑えていた男は思わず手を離したくなったのだが、忍を解放してそれが一体どんな影響が及ぶかと危惧すると、無駄に力み始めた。
きしりと、その内音でもしそうなほど、強く忍の手首を床に押し付ける。

「…っ!!」

関節が痛むのか、忍は時折耐え切れなくなって苦しそうに顔を歪ませる。
その上赤を散らした首筋を無造作に曝け出し、着物の襟が乱れている様は、いつもと違った興奮を呼び覚ます。
決して屈するものかと身構えるその姿勢には崇高な壮美さが窺え、無意識に男達の感嘆を誘った。

そんな姿も、美しい。

危険と隣り合わせだからこそ得られる興奮に、男達は今自分の胸に沸き起こる激情がなんなのか分からなくなっていた。

「うー…。いたいなぁ〜もー…」

空ちゃんは顔を顰めながら、苛立ちさえ含んだ動作で、忍の下半身部分―――袴の紐に手を伸ばした。

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