忍少年と碧血丹心 026

今だうっすらと残るそれを周りの若者たちは厭らしい顔で笑い合う。

「真面目な振りして結構淫乱なんだなぁ〜。こんな跡残しちゃってさぁ〜」
「ひゅー。結構綺麗に咲いてるじゃん。やっぱり相手は『キング』なの〜?忍ちゃん」

やはりそうか―――といわんばかりのそれである。

しかし忍は言い訳をしなかった。
逆にそれが良くなかったのかもしれないが、言ったとしても証拠がある以上、ただの遠吠えだ。
見られたくないモノを見られらとばかりに、少し顔をしかめている忍の姿は、男達の底に眠る支配欲を、くつりと煮や立たせた。

「―――ん」
「っ…」

忍が息を呑んだ。
ちくりと刺すような痛みは忍の細胞一つ一つを覚醒させていく。
白いキャンパスに赤い花を咲かすような―――段々と空ちゃんもそんな行為に没頭し、自分の手で変わっていく忍の反応を楽しんでいる。
ちゅっ―――と、卑しいリップ音だけでも、男達の興奮は更にヒートアップした。
きっちりと閉めていた首元が強引に曝け出され、そこに艶めいた動きで空ちゃんが舌で印を刻んでいく。

融通の利かない少年を、淫乱な少女が手取り足取りと快楽を教えて行くその様―――

それも飛びっきりの美人顔で、一度も表情を崩さない謹厳なその少年を、だ。
それだけでも既に己の雄が反応する男達も多く、忍に対して不躾な欲情の視線を穴が開きそうなほどその体に浴びせている。

まるで視姦していくように、じっとりと…。

しかし忍は綺麗なその顔を少し歪ませる事はあっても、そこには嫌悪の色しか無い。

「―――そこいらで止めときぃ。うちはいくらべっぴんさんかて、やる気がへんわな」

そんな事をしても無駄だ。

無言ながらそう告げられたような気がして、ついに空ちゃんも根を上げた。
お手上げと言った様子で肩を竦めて、息を吐き出すと共に下ろす。

「んもう…。忍君って不能なのぉ〜…」
「どうしたよ、空ちゃん」

「ん…。聞いてよ、忍君ってばちっとも乗り気になってくれなくてぇ〜。なんかその気になる薬とか無いのぉ?」

首を可愛らしく傾げてそう尋ねながら、視線は忍に向けている。

「は?媚薬の事?空ちゃんがまた珍しい―――おい、まだ『例のアレ』あったか…?」
「そういや、奥の倉庫にケンジがごっそり持ってきた奴が残ってたような…。でもアレって後遺症はないけどよ、非公認だし、結構利き目が長いし効果もしつこいって話だぜ〜?」
「―――依存性はないんだろうな?」
「あたりめぇだ。んなあぶねぇ薬、ここに持ってくる訳ねぇだろうが。確かにアレは個人売買されてるし、胡散臭さはあるけど、安全性は保証済みだ。……ユウジさんに叱られる真似はしねぇよ」
「よし、空ちゃんの要望だ。それ持って来い」
「おっけ〜♪」

そんな調子外れた声を出して、若者の一人が嘗め回すような視線を忍に送った後、その場を離れていった。

「ありがと〜」

むろん要望が通った事に『空ちゃん』も機嫌を良くするが、忍は事態の悪化に唸る。

「空ちゃん」
「なぁに?」

「―――君はいつもこんな事ばかりしてるの…?こんな大勢の前で体を晒してるんだから、少しは羞恥の一つや二つ感じてもいいんじゃない…?」

忍の口調がころりと変わる。
一線を引くような敬語でも無く、激昂に逆上した際に出た独特の方言でも無い。
まるで親しみを込めるかのように、それは初めて相手が少年だと分かる話し方だった。

「ねぇ、空ちゃん…?」

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