忍少年と碧血丹心 015

「おいっ!!忍さんをどうするつもりだ!?歓迎するんじゃないのか!!」
「―――だから歓迎してやろうって言ってるんだ」

「『キング』!!」

これだけ『異常』の空気を生きてきた人間の集う環境の中、『平常』を生きる人間を放りこめばどうなるかが分からない男では無い。
どう考えても忍は『普通の人』であり、異様な談笑で盛り上がる輪の中に入っていくなど、武器を持たない農民が戦場に放り込まれるようなものだ。

牙を持たぬ動物を一体どうするつもりか―――

そう、はらはらと見守る『ユウジ』の視線の中、忍の折れそうなほど細い手首を掴んで、ずかずかと王者は纏める群れの中を我が物で進みだす。
一歩一歩が自然なのに、まるで地響きを鳴らすほどの圧倒感がある。
逸らしていた視線も自ずと導かれるように向いてしまう―――そんな魅力がこの男の内側から溢れ出ていた。

「…あっ。『キング』がこっちに来るよ…」
「何時見てもうちのリーダーは格好よいよな。俺もいつか―――」

それぞれ小さなグループを作っていた若者達の意識は途端に近づいてくる『キング』に注がれる。
話しかけられたい、その目に一瞬でも己を写したい、意識を向けられたい―――そんな渇望の眼差しが集中していた。
しかし忍にはどこか嘗められたような冷たい眼差しばかりが突き刺さり、終いには忍を射殺さんばかりの殺気とさえ正面衝突する始末だ。
『キング』の足並みは迷う事無く一点へ―――それは先ほどまで性交を罰ゲームとして披露して見せたテーブルだった。
忍の体が一瞬強張った途端、逃がさないとばかりに掴む手は強さを増す。

「痛いですって…!!」

少し顔をしかめて、『キング』の手を引き剥がすその前に、男はすばやく忍と足並みを揃えたかと思うと、その細腰を掴んで前へ差し出した。
途端に輪を作っていた若者達の期待に満ちた目がこちらに向けられる。
男が3人と女が1人―――それも先ほどの主要メンバーだ。
『空ちゃん』すらこちらを見つめているが、よもや忍が同じクラスの『白鳥 忍』である事にも気がついていない。

それも当たり前だった。
今の忍は昼間とだいぶ印象が変わっているのだから。

好機に満ちた眼差しが若干忍には痛かった。
『キング』はその反応にすら既に至当としているのか、その表情に変化は無い。
ただ、楽しそうに目元を細め、不屈の貫禄を惜しげもなく見せ付けるのである。

それも無意識に、だ。

これこそ天性のカリスマと呼ばす、なんと呼ぶのか。

「おい。コイツを楽しませてやれ」

そこは忍にとっての死刑執行台だった。

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