忍少年と碧血丹心 016

「おい。コイツを楽しませてやれ」
「はぁ?!」
「―――分かりましたっ。任せてください!!俺、人を喜ばせるのは得意なんです!!」

忍は拍子が抜けたような絶句の声を上げるが、今がまさに自分をアピールする絶好の機会とばかりに、胸を張る青年の姿は高潮に頬を染めていた。

「でも、いいんですか!!?こんな美人さん独占して…?」
「―――ああ、『好きにしろ』」

少し含みを込めた言い方に、その場にいた男達がにやりと不気味な笑みを零した。
忍を捨て去るように突き出すと、『キング』は背を向けてさっさと先ほどの道を帰っていく。

「ちょっと…!!」

慌てて忍も踵を返そうとしたが、それよりも早く、立ち上がっていた青年が忍の肩を抱いて引き寄せた。
肩を掴むその指先が怪しげな動きを見せ、わざとなのか―――その耳元で息を吹きかける。

「ささ、座ってよー」
「…」

顔立ちの良いその青年は忍に親狎的だった。
ただし、その意味合いとしては友人として扱うのではなく―――…

(指の動きが、なんややらしいわ…)

忍は好意的な相手を振り払う事も出来ないまま、先ほどまで性交で勤しんでいたソファに座らせられる。
グラスを握らせられ、しかし直ぐにそれは置いた。

「…俺、お酒は苦手なんです…」
「そっかぁ〜。それじゃ甘いジュースなんてどう?」

「…では、そこに置いてあるウーロン茶頂けますか……?」

遠慮がちに、だけど愛想良く忍はそれに答える。
隣にはあの『空ちゃん』が忍の横顔をじっと見詰めていた。
その眼にはどこか物欲しげな色が深い。
右隣の男など、今だ忍の肩を抱き、太ももを密着してくるのである。
まるで恋人同士の甘い絡みで、性急な印象があまりにも濃い。
目の前には、小さな椅子に座った青少年が2人。
長髪の青年と短く散髪したのをワックスで固めた少年―――彼らもまた『キング』が連れてきた忍を興味深そうにジロジロと押し隠す事無く視線で犯していく。
忍の内心は悲鳴の連続である。
握った両手には冷や汗すら浮かんできた。

「えっとぉ?忍君だっけぇ?初めましてー『空』<クウ>でーす」

その可愛らしい顔には、既に性交をしていた時の色艶の痕跡は見当たらなかった。
まるで先ほどの事なんて無かったような態度に、忍は少し戸惑う。
君の事は良く知ってるよ―――だなんて冗談でも言えない忍はそれこそ綺麗ににっこりと微笑んで、「初めまして」とあいさつを交わす。
すると少し頬を赤く染めて、空ちゃんはこんな事を言ってくれた。
それもずいぶんと照れくさそうに。

「―――忍君かぁ〜。空の学校にもねぇ、『しのぶ』って名前の人がいるんだよ〜。ただ忍君と違って根暗でね、けどオタクとも違うの。うーん、世間一般で言えば『優等生』??―――お友達いないみたいで、いっつも一人で本読んでるんだぁ。成績はすっごく良くって、空の隣の人でもあるんだけど…うん。友達いない事だけあるよね〜、性格がめちゃくちゃ悪いんだよ!!結構前なんだけど、初めて話した時なんか最悪で―――って、ごめんなさい、つまらない話しちゃったぁ〜」

(その忍がウチやで、お隣んとこの空<ソラ>はん…)

むろんそれを教えるつもりも無いが―――…。

他の男3人も名を名乗ったようだが、生憎忍は覚える気はさらさら無かった。
もうこれっきりなのだから、覚える必要も無い。
一晩の悪夢で終わるのだ。

そう思っていたのだけれど―――…


line
-16-

[back] [next]

[top] >[menu]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -