忍少年と碧血丹心 011

歓声は今だ収まらない。
しかし、すっかり性交の熱は冷めていた。
突っ込んでいたイチモツを慌てて仕舞い込み、空と呼ばれた少女も『キング』の登場によって我に返ったのか―――疲れも知らないように高速で身なりを整えていく。
若干顔を青くし、どこか焦っているようにも見える。
歓声の中に怪訝そうな声や疑問を持つ声もあった。

「あの子、誰?」
「えっ?和服?コスプレしてんの?なんか成人式みたいな格好だな」
「なんで『キング』と一緒に並んでるんだ…?」
「なぁなぁ。あれ男?女?―――どっちにしろ毛並みの綺麗な猫だなぁ…」

何人かが、ほうと溜め息をついた。
しかし忍の存在を疎むように、白い眼で冷たく凝視する者もいる。

「馬鹿。あれはどう見たって女だろ」
「馬鹿はてめぇだ。男用の羽織着る女がどこにいる」
「―――けど、本当に誰なんだろうな。そういえば今日は『キング』が誰か連れて来るって言ってたような」

それはじょじょに大きくなるが、直接この男―――『キング』に尋ねられる事は出来ないようだ。
ただ、木の葉を揺らす森の囁きみたく、ひそひそと周りはざわめいた。

忍はそれを気にした素振りも見せないまま、例えようのない嫌な威圧感で重々しくなった空気の中でさえ、堂々歩き続けた。

「…」
「忍。こっちだ」

その男『キング』はどこか面白おかしそうに笑みを浮かべていた。
『キング』には、忍が少し緊張しているという事が分かったのかもしれない―――それを悟って、忍が面白くない気持ちになった事など、『キング』は知らない。

男は周りに視線さえ向ける事なく、忍の背中を押してカウンターに向かう。
忍は『キング』のジャケットを抑えたまま、それに従って歩いた。

客席とカウンターを隔てるように、三段ほどの階段があった。
あれだけ人がいたのにも関わらず、カウンター周りのテーブルやソファには数名しかいない。

女の姿も無く、そこは比較的温度が冷めていた。

ソファに居座り、酒を呷って談話する振りをしているが、誰もが無言のまま、忍の存在を警戒するように男達が気配を伺ってくる。
まるで王を守る騎士<ナイト>のような威厳と風体で、やはり彼らもまたモデル並みの美貌を惜しげもなく晒していた。

芸能人の集まりか何かか―――と本気で思わせる場所だ。

「やぁ、『キング』。何日ぶりかな?久しぶりに会えて嬉しいよ」
「お前も元気そうだな。これが俺の『連れ』だ。丁重に持てなしてくれよ、『ユウジ』」

その言葉を聞き取った何人かがそれに反応する。
少し動揺も加わっていた。

特別を意識する言葉。態度。
その真意は一体なんなのか。

「はいはい。少なくとも目の前にいらっしゃる『俺様』よりは相応しく振舞えると思うんだよね。―――ああ、君もコイツの世話するの、大変だったでしょう?俺でも毎回手を焼くぐらいなんだ。それにしても、災難だったねぇ」

唯一忍を暖かく出迎えたのは、カウンターでバーテンダー役を務めている『ユウジ』と呼ばれた男だった。


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