9:夜
夜、私は海を見下ろしていた。
夜の海は不気味なほど真っ黒い。
私は敵であるにも関わらず、なぜか拘束をされなかった。
確かに私は今武器を所持していないが、あの非力そうなオレンジ髪の女や小さい生物くらいは殺せるだろうに。
「油断し過ぎだ、この船員達は。そうは思わないかマリモ」
「マリモって呼ぶんじゃねェ、ガキ」
私は後ろに隠れている緑髪に声をかけると、ゾロは素直に姿を現した。
「気づいていたのか?」
「実のおかげで私は気配には鋭い。だから隠れても無駄だ」
私の言葉に緑髪は舌打ちをして、それから私へと彼が手に持っていた何かを投げ渡した。
受け取ると、それは私の刀だった。
そうか、これはこの船にあったのか。
「何を考えている?」
私に刀を渡して、なんのつもりだ。
何か目的があるに違いないと私は疑ったけれど、彼は私が刀の柄に手をかけても腰にある刀へ手を延ばしさえしない。
「…てめェは何であの時本気で戦わなかった。」
「はぁ?」
「逃げるとき、てめェは戦っていた時よりもずっと素早かった。なんで悪魔の実の能力をなんで使わなかったんだ?」
「ああ、なるほど」
私は頷いた。
確かにそれならば私が手を抜いていたことになる。
「私が逃げるのが早かったのはたしかに実のおかげだ。悪魔の実の力を使えば私はもっと優位に戦えただろうな。でも、私は刀に関しては。純粋に力で戦ってくる者には私も純粋な力で戦いたい」
まあ、ゾーン系の実は人の状態でも能力が少し反映されるが。それは仕方がないとする。
たとえ母の命がかかっていようと、私はそれだけは、そのポリシーだけは守りたかった。
この刀を手に入れたとき、私はこの刀にふさわしい剣士になりたかったのだ。
・・・そうか。
「本当はさっき。私は海に落ちて死のうと思っていた」
「はぁ!?」
驚いてからすぐに苛立った表情をした彼を、私は無視して話を続けた。
「私は絶望していたんだ。私には何も無いと」
なら死んでもいいだろうと思っていた。
母や船員が罰せられるなら自分もというもっともらしい理由ではなく、ただこの世界から逃げたかった。
何もない空虚と絶望が死よりも怖く感じた。
「・・・けれど違ったな。私にはこの刀がある」
この刀は昔あの島の外で悪党から巻き上げた戦利品だ。
子供心には綺麗な刀がどの宝物よりも輝いて見えた。
「もう私は簡単に死ぬつもりはない。刀を返してくれてありがとう、ゾロ。君たちにはすまない事をした」
私は刀を抱きしめた。
唇をギュッと閉じて、こらえようと思っていたがそんな努力もむなしく海軍の船の時のようにまた私の目からは涙が零れた。
私はそんな涙を無視して冷たい熱を持つ相棒を決してもう手放すまいと誓う。
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