雨模様 | ナノ
第3話

狭い世界で生きてきた私は人と関わることがとても苦手だ。相手の目もまともに見れないし見られることも怖い。興味を持たれるくらいならいっそのこと主人のように私に無関心でいてほしかった。

「よっ、君この試験初めてだろ?」

開場してからずっと隅の方で大人しくしていたのだが先程知らないオジサンに見つかってしまった。全身を覆う黒いマント。落ち着きなく左右に揺れてしまう目を隠すためのサングラス。それだけでは不安でマスクまでしてきてしまった。フードも深く被っているし相手からは私の表情は一切読み取れないだろう。怪しい自覚はあるけれど気味悪がられて距離を置かれるぐらいがちょうどよかった。しかし話しかけられてしまった以上、無視するわけにもいかないので声のする方へ僅かに視線を向ける。

「何でわかるかって?オレはトンパ。試験のベテランなんだ。だから新顔が入れば大体わかる。おっと、そうだ。これ飲むか?緊張すると喉渇くだろ?」

オジサンは優しく笑いながら私に飲み物を差し出してきた。……嫌だ、怖い、要らない。相手の厚意は素直に受け取らないと失礼だってわかっているけれど怖くて受け取ることが出来なかった。そもそも見ず知らずの人が私に親切にしてくれるはずがない。もしかして毒か何か入っているんじゃ…

「遠慮することないぜ。勿論、毒なんて入ってねェよ」

疑っていることが伝わってしまったのだろうか。トンパさんは疑いを晴らすべく持っていたジュースを飲み干した。ここまでして貰っているのに疑い続けるのは失礼に当たる。きっととても優しい人なんだろう。そう思いたいけれどやっぱり彼の態度はどこか不自然で。何か入っている気がしてならなかった。

「どうした?飲まないのか?」

再度目の前にジュースを出されて反射的に受け取ってしまった。私がこれを飲み干すまで彼はここを離れないだろう。毒入り疑惑のジュースを飲むことよりもこのやり取りを続けていく方がずっと辛かった。

「いただきます」

死なない程度で済めばいいなあ…





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