雨模様 | ナノ
第32話

私とギタラクルの間に立ったのはヒソカだった。この人に庇われる理由が浮かばなくて更に警戒を強める。罠、かもしれない。

「…なんで」

「ちょっと、ね。キミに死なれるわけにはいかないんだ」

含みのある台詞に首を傾げる。私が死ぬことでこの人に何の不利益があるというんだ。全く意味がわからないが、この人が今回は味方についてくれるのなら有り難い。

「あーそう来るかー。君と戦うのはリスクが高すぎるし…。そうだ。先にゴンを殺そう」

キルアのお兄さんはそう言って出口の方に向かった。そこにはクラピカやレオリオを始めとした受験者たちが立ち塞がっている。

「まいったなあ…仕事の関係上オレは資格が必要なんだけどな。ここで彼らを殺しちゃったらオレが落ちて自動的にキルが合格しちゃうね。あ、いけない。それはゴンを殺っても一緒か…うーん…そうだ!まず合格してからゴンを殺そう!」

「………っ」

「キル。オレと戦って勝たないとゴンを助けられない。友達のためにオレと戦えるかい?ヒソカだって四六時中ハルを見てるわけじゃない。隙を見て彼女のことも殺すよ」

なんて、…なんて酷い人なんだ。こんな残酷な選択をキルアに迫るなんて。嫌だと思いながらも最後は自分に逆らえないことをわかった上で聞いているんだ。

「やっちまえキルア!どっちにしろ誰も殺させやしねえ!そいつは何があってもオレ達が止める!お前のやりたい様にやれ!」

「っ、キルア…」

「……まいった。オレの…負けだよ」

キルアはお兄さんの手が触れる寸前で、そう呟いた。

「あーよかった。これで戦闘解除だね。はっはっはウソだよキル。二人を殺すなんてウソさ。お前をちょっと試してみたのだよ。でもこれではっきりした。お前に友達をつくる資格はない。必要もない」

ポンっと手を叩いて喜ぶキルアのお兄さんの姿はあまりにも無邪気で、残酷な台詞との差がすごく怖かった。

戦いが終わってもキルアは私たちのところには戻らず、一人思い詰めた顔で下を向いている。クラピカやレオリオが何を言っても反応せず、魂が抜けてしまったようだった。

「ハル!お前からも何か言ってやれ」

「で、も…な、何を言えば…」

「そんなの何でも良いんだよ!こんなとこで小さくなってねーで早くキルアんとこ行ってやれ!側にいるだけでもいいからよ!」

レオリオの言葉にハッとする。私がしんどい時はいつもキルアが側にいてくれた。今度は私がキルアの力になりたい。レオリオに向かって大きく頷いてから、キルアの隣に移動した。

ギタラクルが傷つけた審査員の治療などで次の試合が始まるまで少しだけ時間がある。励ましたい、元気付けたい。そう思うのにいざ隣に並んでも何を言えば正解なのか全くわからなかった。

「……お前、怪我は」

「っ、あ…だ、大丈夫…無傷…」

ほんの小さな声でされた問いになるべく明るい声色で答える。こんな時なのに私の心配をするキルアは本当に優しくて強い。私も、何か言わなきゃ。俯いて言葉を探していると、視線にキルアの手が入る。いつも堂々としているキルアの手がほんの僅かに震えているのを見て、思わずその手を握り締めた。

「キルア、私、キルアが大好き。だから、キルアも一緒にいたいと思ってくれてたこと…すごく、すごくうれしかった」

「……っ」

キルアは一瞬信じられないと言った顔をしたが、直ぐに俯いてしまって、何も返してくれなかった。

「第7試合!レオリオ対ボドロ!始め!」

「ハル」

「?」

「……ごめんな」

次の試合が始まった直後。キルアは私の手を振り払って191番の心臓を貫くと、何も言わずに部屋を出ていってしまった。




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