雨模様 | ナノ
第31話

変装を解いた後のギタラクルは先程とは全く違う姿になっていた。この人が、キルアのお兄さん…?兄弟の関係は私にはよくわからないけど感動の再会というわけではなさそうだ。

「まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんてね。実はオレも次の仕事の関係上資格をとりたくてさ」

「別になりたかった訳じゃないよ。ただなんとなく受けてみただけさ」

「…そうか安心したよ。心置きなく忠告出来る。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから」

この場から逃げ出したくなるような重苦しい空気が漂う。この感じ、覚えがある。そうだ。威圧的で有無を言わせない感じが私の義父にそっくりなんだ。

「お前は熱をもたない闇人形だ。自身は何も欲しがらず何も望まない。影を糧に動くお前が唯一歓びを抱くのは人の死に触れたとき。お前は親父とオレにそう育てられた。そんなお前が何を求めてハンターになると?」

「確かにハンターにはなりたいと思ってる訳じゃない。だけどオレにだって欲しいものくらいある」

「ないね」

耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。あそこで萎縮するキルアの姿が家に居る時の私の姿と重なって堪らず目を閉じた。見ていられない。

「ある!今望んでることだってある!」

「ふーん。言ってごらん。何が望みか?」

「……」

「どうした?本当は望みなんてないんだろ?」

「違う!……ゴンと友達になりたい。ハルともっと一緒にいたい。もう人殺しなんてうんざりだ。普通に2人と友達になって普通に遊びたい」

「無理だね。お前に友達なんてできっこない」

キルアの口から自分の名前が出たことに驚いて弾かれたように顔を上げる。キルアの願いを聞いても尚お兄さんの表情は一切変わらず、それがとても怖かった。

「お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断できない。そう教えこまれたからね。今のお前には二人が眩しすぎて測りきれないでいるだけだ。友達になりたい訳じゃない」

「違う…」

「二人の側にいればいつかお前は二人を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試したくなる。なぜならお前は根っからの人殺しだから」

暗示のようなお兄さんの言葉は私の中の義父との記憶を強引に引き出してきて、気分が悪くなる。キルアをこれ以上この場所に居させちゃだめだ。

「キルア!お前の兄貴か何か知らねーが言わせてもらうぜ!そいつはバカ野郎でクソ野郎だ!聞く耳持つな!いつもの調子でさっさとぶっとばして合格しちまえ!」

そう思うのにどうすることもできなかった。同じように萎縮してしまって声も出ないし、足も動かない。動け、声を出せと念じても行動に移せない自分が情けない。

「ゴンとハルと友達になりたいだと?寝ぼけんな!とっくにお前ら友達同士だろーがよ!なぁ、ハル!」

「っ、う、うん…友達…!」

レオリオに引っ張られて、なんとかそれだけ口に出す。こちらに視線を寄越すギタラクルの顔を見てしっかり頷いた。

「え?そうなの?そうか、まいったな。あっちはもう友達のつもりなのか…。よし、二人を殺そう。殺し屋に友達なんて要らない。邪魔なだけだから。とりあえず近い方から殺ろうかな…」

「……っ」

キルアのお兄さんがこちらに近付いて来て反射的に後ずさる。私がここで死んだら優しいキルアは自分のことを責めてしまう。絶対に死ねない。そう思って臨戦態勢に入ると同時に私の目の前に誰かが立ちはだかった。




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