雨模様 | ナノ
第29話
ゴンの試合が始まってもハルの視線はこちらに向けられたままだった。原因は多分つい先程の自分が口走った言葉。あれ以降ハルは自分の話題に対する関心を失って、代わりにオレの真意を探るようにじっとこちらを見ている。
視線に気がつかないフリをするのもそろそろ限界だろう。こういう時のハルは恐ろしくしつこい上に勘も良いからこのまま有耶無耶にすることも難しそうだ。あんま言いたくねーしとりあえずハルの出方を見て曖昧に答えよう。
「キルア、ゴンと何があった?」
こいつ…ストレートすぎる…!駆け引きなんて一切できないハルらしい言葉選び。何かあったことを前提に話を進める気かよ。その手には乗ってやんねーからな。
「はぁ?何もねーよ」
「それは…信じられない。顔、いつもと違う…」
あ〜〜やりづれ〜!何?オレってそんなに顔に出てる?顔が違うと言われても恐ろしいことに全く自覚がなかった。こちとら何を考えてるのかわからないってのがチャームポイントだぞ。顔でわかってたまるか!
「いいからお前はゴンの試合見てろよ!あのハゲとも仲良いだろ。気になるんじゃねーの」
「?、私はキルアの方が大事」
「だ、からお前はすぐそういう…」
「私は…全部話した。次はキルア…」
駆け引きも読み合いもあったもんじゃない。自分は言いたくないこと話したんだからお前も話せ、なんてめちゃくちゃだ。断る理由なんて幾らでも浮かぶはずなのにこいつに正面からぶつかられるといつも巧く逃げきれない。
「……ハル、このトーナメント表どうやって作ってるか知ってる?」
ハルは少し考える素振りを見せてから首を横に振った。
「評価が高いやつほど試合の順番が早くなるようになってんの」
「えぇ……?私…初戦だったけど…」
「お前、何気にめちゃくちゃ成績いいだろ。将来性考えたらオレだってハルを初戦に据える。…けど、ゴンは違う」
引っかかっているのはハルやヒソカの順番じゃない。オレとほとんど同じ成績…いや、むしろオレより劣っているゴンの順番だ。
「オレとゴンだったらオレの方が成績良いはずのにゴンの方が評価が高い…。それってオレがゴンに資質で劣ってるってことじゃん?なーんか納得いかなくてさー」
頭の後ろで腕を組み、わざと明るい声を出す。
「こうして試合見ててもオレだったらこうできるのに…とかだっせーことばっか考えちまうし。流石に引くだろ?友達が腕折られてる時に考えることじゃねーよな」
オレだって自分にドン引きだ。くそ、やっぱし言わなきゃよかった。言葉にすると自分のダサさが更に強調されて虚しくなってくる。
「…でも試合見ててわかったよ。ゴンはたった一言で周りの空気を変えられる。周りを巻き込む力があるんだ。オレには絶対ムリ。そーいうとこなんだろうな」
「………」
聞くだけ聞いといて何も返さないハル。前にもこんなことがあった。ハルは肝心な時に何も言わないから、オレはいつもペースを乱されて言わなくてもいいことばっかり言ってしまう。
「お望み通り全部話したぜ。これで満足?」
…はぁ、最悪。なんつー聞き方してんだよ。この試験を受けてから知りたくなかった自分の一面をどんどん知っていく。オレっていつからこんな余裕ないやつになったんだ?
「キルア…内密にしてほしい話がある」
「んだよ…改まって…」
「あのトーナメント表、多分誤植してる」
「はあ!?」
突拍子のないことを真顔で告げるハルに思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「だって、そうとしか考えられない。私、ずっとキルアのこと見てた…けど、キルアが劣ってるところなんて何もなかった…!強いし、頭もいいし、影響力だってある…!どう考えても、キルアが一番…!そしたらもう、このトーナメント表が名前を書き間違えてるとしか…ど、どうしよう。私、このこと試験官に言った方が…」
「落ち着け」
人と話すのが苦手なくせに試験官に向かって行こうとするハルをフードを引っ張って止める。首が締まってしまったらしく小さくむせこむハルに「悪ぃ」と謝るが、すぐにずれた方向で真剣に悩んでいるハルに対して笑いがこみ上げてくる。
「ふ、ははっ、お前ってホント期待裏切らねーよなぁ」
「え?私、何か…おかしなことを…?」
「いーや。つーか吹っ切れた。別にどこの誰ともわからないヤツの評価なんてどーでもいいや。ハルの中ではオレが1番みたいだし?」
そう言ってニッと笑う。さあ、照れろ!自分で言ったことを後から穿り返されるのって恥ずいだろ〜
「…うん、そう。キルアが1番」
「〜〜っ!ちったぁ照れろよ…」
「?」
くそ、心理戦じゃ勝てる気がしない。
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