雨模様 | ナノ
第26話

ヒソカと向かい合って、ヒソカのなんだか怪しい視線から逃れるために辺りを見渡したのがいけなかった。私は気づいてしまった。この勝負が他の受験生に見られながら行うものだということに。

「始…」

「まっ、て」

思わず開始の合図を止める。余計なことをしたせいで更に注目されてしまった。やばい。どうしよう。心臓が早鐘を打ち、足が震え始めた。私の異変に周りがざわつき始めて誰かが私の名を不安そうに呼ぶ声が聞こえてきた。

目を閉じて俯き、震えが治まるのを待った。大丈夫、大丈夫。見られることは怖くない。

「ハル!!!」

全てがもやもやしていたのになぜかキルアの声だけが妙にクリアに聞こえてきた。驚いてそちらに視線を向ける。

「やっちまえ」

キルアは拳を手前に突き出して笑いながらそう言った。不思議なことに、それだけの言葉で嘘のように震えが止まってしまったのだ。

お礼の意味も込めて、同じように拳を突き出す。そして審判に試合を再開するよう告げてヒソカにも頭を下げた。

「始め!」

こうして始まった対ヒソカ戦。相手が何をしてくるか全く読めないので、直ぐに距離を取る。しかしヒソカは一向に動かず、攻撃してくる気配もない。これは…私の集中力がどのくらい続くか調べているんだろうか。それならこっちから…

「まいった」

攻撃を仕掛けようとした瞬間、ヒソカがそう言った。全く予想外の言葉に思考も動きも停止する。

「…今、なんて」

「まいった。僕の負けだ」

「え、でも…私、まだ何も…」

助けを求めて審判を見ると審判も虚を衝かれていたが直ぐに我に返り試合を終わらせてしまった。状況は明らかに不自然だけどヒソカが負けを認めたのは事実だ。

こうして私は合格者第一号になった。




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