Pray | ナノ
雷市に回る二巡目にあわせて青道側は早速投手を変えてきた。うちの打者に的を絞らせるつもりは一切無いようだ。
「(勝利のための継投ねー…)」
研究のために今までの青道戦を見ているときから思っていたけどこの学校は投手層が厚いようで薄い。
高校野球にはチームメイトを活気づける絶対的エースが必要だと思う。ボロくそに負けてたってエースがマウンドに立った瞬間から流れが変わることもあるし。うちには真田先輩がいるけど青道にはそういう存在がいない気がする。
勝利のための継投って言えば聞こえはいいけど、俺にはこの作戦が「うちには大事なところを任せられるエースはいませんよー」って露呈しているようにしか思えなかった。
「(ま、色んな球打てるからいっか!)」
降谷の代わりに出てきた投手は1年沢村。ビデオだけでは見えない何かを持っていたやつだ。こいつの球筋見てみたかったんだよな。
「ガンガン打たせていくんでみなさんよろ…」
「?」
「やっぱり打者集中で行きたいと考えます!どうでしょう!?2アウトなもんで!走者なしなもんで!」
「…ぶはっ」
「い…言い直さなくていいわ!よけーにバカがバレる!」
試合開始直後に叫びながらブルペンにダッシュしている姿を見たときから思ってたけどこいつ絶対雷市と同じ類いだ。
「こりゃまた頭の悪そうな奴が…」
「自分の考えを周りにちゃんと伝えようとするとは…スゲェ…」
「感心するとこじゃねーぞ雷市!!アホがバレる!」
「はは…っ、こいつら…やべ…っ、腹いて…あはははっ」
打ち取られたあとに機嫌が悪くなるのが俺の悪いところだけどこいつらのお陰で今回はそうならなくて済みそうだ。
「お前またツボってんの?」
「むしろ先輩よく平気っすね…!」
「お前以外誰もツボってねえから…」
そう言われて周りを見るとたしかに俺みたいに笑っているやつはいなかった。うちだけじゃなくて青道側にも笑ってるやつはいな…あ…いや…いた。さっき俺をアウトにしたライトの肩が震えている。
「カハハハ!(さっきの豪速球ももう1回打ちたかったけどビデオで見たときからコイツもずっと気になってたんだよな)」
「(おー…雷市が楽しそうだ)」
「(この投手の他にもあと二人…。クカカ…。一試合でいろんなタイプの投手の球を打つことができる…おもしれェ。このチーム!)」
初球。沢村はド真ん中にストレートを放った。おいおい初球から大冒険だな。最初はあいつの球筋を見極めることに集中する作戦になってたから良かったもののそうじゃなかったらホームラン食らってもおかしくなかったぞ。
思わず相手チームを心配してしまうくらい今のは危険なボールだった。もし意図的にあのボールを投げさせてたとしたらあのキャッチャーやばくねえ?そんな風に考えたが捕手から投手に向けた全力の送球を見る限りそういうわけじゃなさそうだ。
「俺だったら放棄しちゃうかも」
「は?どうした急に?放棄?」
「今の球見た?投手の独断で投げたみたいだけどこの大事な場面で有り得なくね?俺らにとってはラッキーだけど継投作戦失敗したら青道終わりじゃん。俺が捕手だったらもうあいつの球受けたくねーなあ」
まあ沢村も雷市の雰囲気に呑まれただけで冷静になればそのくらいのこと考えられるんだろうけどさ。そう付け加えると三島は目をパチパチと瞬いた。
「お前さー」
「なんだよ」
「いっつも雷市と一緒にいるから先輩たちから薬師の二大バカみてーに言われてるけど、結構色々考えてんだな」
「はあ!?当たり前だろ!野球は色々考えた方がたのしいんだよ!誰が二大バカだ!このミッシーマ!」
「なっ、俺の存在自体を悪口にするな!!」
三島のことは放っておいて試合に集中しよう。
さっきから雷市の打球は微妙に芯を捉えていない。雷市が手こずるってことは結構クオリティの高いクセ球なんだな…。
「テメェら!!動く球を打つにはギリギリまでボールを呼び込むことだ!詰まったって構いやしねぇ…テメェらなら内野の頭は越える!あの投手をガタガタに打ち砕いてやれ!」
俺は外野の頭越えてやるけどな!そういう目を監督に向けたら楽しそうにニヤっと笑われた。はいはい言いたいことがあるなら行動で示せってことだろわかってるよ。
「(雷市もそれぐらい余裕だろうけど)」
「(ヤ…ヤバイ…この球差し込まれ…)」
「っ、なっ!?」
あの雷市が、詰まらされた!?
打球はふわりと打ち上がり、雷市はピッチャーフライに倒れた。
「マジか沢村ァ!!と…轟をねじ伏せやがった!!」
「やればできんじゃねーか!!」
雷市が詰まらされるところなんて久しぶりに見た。んなこと出来んのなんて真田先輩くらいかと思ってたわ。相手の継投策は見事にハマってしまったけど、次からはうちもエースが投げるし、まだ試合はこれからだ。
エース登場
(クセ球勝負っすね)
(どっちが勝つと思う?)
(真田先輩に全票です)
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