Pray | ナノ
3回表。再び俺たちの攻撃が始まった。点差も点差だしそろそろ追加点が欲しいところだよな。そんな大事な回の先頭打者は8番小林さん。その次は9番佐原。俺の番だ!
「っしゃ、打つぞー!」
「渚、渚!降谷の球はびゅーっと来たら…」
「自分の目でたしかめるから良い!見てろよ雷市!ホームラン打ってくるからな!」
「おおお!渚かっけェ!」
「まあな!!!」
「お前ら本当仲良いな…」
雷市にそう宣言してからネクストバッターサークルに入る。そこから見た降谷の球は同学年が投げてるとは思えないくらい速くて武者震いがした。これでコントロール優先してるとかマジ?すげ。
小林さんは何球か粘った末、キャッチャーフライに倒れてしまった。次はいよいよ俺だ。楽しみすぎて顔がニヤけそうになる。
「渚、嬉しそうっすね」
「ここまで一回も出してねぇからな…。色々溜まってんだろ。こういうときの渚は強いぜ。雷市並に」
「(絶対雷市以上とは言わないんだよな…。親馬鹿だから)」
打席に入って降谷を正面から見据える。野球選手にしては華奢な体躯からあの豪速球が生み出されてるなんて冗談みたいだ。
初球。低めに入ったストレートをすんなりと見送った。うんうん。迫力あるしすげー速いけどこれなら打てそう。さて、どうするか。
「……!」
いいこと、考えた。
バレないように小さく笑って、ストライクゾーンに来たストレートをさりげなくタイミングをズラしてファールにしていく。
「っ、あの馬鹿…」
「どうしたんすか?」
「あいつスプリット狙ってやがる…!」
「え……」
「はぁ…。捨てろって言ったのに聞きやしねえ…」
投手の雰囲気がわずかに変わったような気がした。確証はないけど次はスプリットが来る気がする。打つ前に一度球筋を見ておきたかったけど次いつ投げてくれるかわかんねーし来たら打つしかないよな。
「っしゃあ!打ったー!」
「……なっ、」
降谷は直感通りスプリットを投げてきた。狙い通り!思ったより落ちたから完璧とは言えないけど、しっかり芯で捉えることができた。ライト方向にぐんぐん伸びる打球を見てホームランを確信する。
「……は?」
ガッツポーズをしようと一瞬目を反らした隙に、その打球はライトのグラブにしっかり収まっていた。
数秒の沈黙の後、わああああっという凄まじい歓声で会場が揺れる。なに、え?今、何が起こった?
「ははっ、マジかよあいつ…」
相手捕手の呟きで我に返る。そうか、俺アウトになったのか。持ったままだったバットをぎゅっと握りしめて、打席を出る。いまいち状況が理解できなくて呆けていると、控えていた雷市と目があった。
「雷市……」
「あー…え…と……。…ど、ドンマイ!」
「俺の打球完全にフェンス越えてたよな?なんであいつボール持ってんの」
何やら気を遣いまくっている雷市にさっきから気になって仕方がなかったことを尋ねる。
「…よじ登った」
「は?」
「向こうのライト、フェンスよじ登ってそのままボール掴んだんだ」
「……はぁ?」
なにそれ…すご…。普通あんな打球見たら諦めて見送るだろ。完全にフェンス越えてたんだぞ?よじ登ってキャッチって。漫画か!
ライトの方に目をやると、降谷と同じくらい華奢なやつが何事もなかったかのように守備についていた。あいつ整列のときに見た芸能人じゃん。顔採用じゃなかったんだな。
「雷市」
「お、おう」
「次は絶対打つから」
「!、…カハハ!俺も打つ!」
「おう!かっ飛ばして来い!」
ニッと笑った雷市に俺も笑い返す。
塁に出られなかったのは残念だけどこれで俺のこともちょっとは警戒してくれんだろ。ノーマークなのムカつくし!すげーのは雷市だけじゃねーからな!
次こそは
(監督。塁出れなくてすいません)
(それより渚。作戦復唱してみろ)
(は?スプリットは捨て…あ!!)
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