Pray | ナノ
3回裏。青道のクリーンナップに追加点を許してしまい4点差がついたところで真田先輩がマウンドに上がった。

「真田先輩!こっち打たせていーっスよ!絶対止めてみせるっス!!」

「お前んトコは怖くて打たせらんねぇよ。エラーしそうだし」

「ぶはったしかに!!!」

真田先輩と雷市のやり取りに思いきり吹き出す。たしかに雷市ってファインプレーかエラーのどっちかしかしねーもんな。

「お前またツボってんの?」

「先輩のせいっすよ…!ははっ、だめだ…ちょっとタイムください…っ」

「何これ内野に不安しか抱けねぇんだけど」

腹を抱えて笑い出す俺とこっちに打たせろとしつこくせがむ雷市。そんな俺達に呆れてしまったのか真田先輩は顔を覆いながら天を仰いだ。

「雷市〜真田の足引っ張るなよぉ、ケースごとにどこ投げるか確認しとけ〜!お前はあんま頭よくねーんだから。あと真田、渚一発殴っていいぞ。集中しろ〜!」

「うるせ〜クソ親父!遺伝なんだから仕方ねぇだろ!」

「え!?俺殴られんの!?」

「よーし渚歯食いしばれ」

「先輩目がマジすぎて怖えっす!」

真田先輩がマウンドに上がるといつもこうだ。雷市が無駄絡みして先輩を困らせ、そのやり取りに俺がツボってしまうせいで中々場が整わない。でもこういうの久々だな。予選始まってからは試合出れてなかったし。うん!すげー楽しい!

「(1アウトランナー二塁。打席にはパワーヒッターの5番…。俺の役目はこのチームの勢いを殺すこと…いきなり激アツ!!)」

「デットボール!!」

初球デットボールは最早お馴染みだ。胸元をえぐるシュートが得意球のせいかこの人はとにかく打者にぶつける。

攻めの投球は真田先輩の持ち味だけど次は要注意人物の一人だからその前にランナー出したのはちょっと痛かったかも。打席に立ったのはチャンスに滅法強いと評判の青道の正捕手だ。

「(うわ…えぐ)」

そいつがバットを短く持ち直したのを見て苦笑いを浮かべた。狙いは長打じゃなくて確実に次に繋ぐことってわけか。さすが捕手。投手の嫌がることを熟知している。

「(カウント0-2。次はストライクがほしい所だよな。この場面…最悪なのは外の球を引っ掛けてのゲッツー…無理には引っ張りにいかず狙いはショートの頭上。シュートだろうがストレートだろうが甘く入ってきたら打つ!)」

「男になれ御幸一也!男に〜〜」

「(なんか変なの聞こえる)」

「(来た、甘いコース。タイミングバッチリ…)」

真田先輩のカットボールに6番は思いきり詰まらされた。打球はボテボテと転がって、先輩のグラブに収まる。

「セカン!」

「ファースト!」

「おっしゃあああゲッツー!!」

「さすがサナーダ先輩!」

「ナイスボールっす!」

真田先輩の活躍でこの回はそれ以上追加点を許すことはなかった。しかし追加点が取れないのはうちも同じで。

雷市を打ち取って勢いに乗った沢村のボールをうちの打線が中々攻略出来ないでいるのだ。

「まさかの投手戦っすね…」

「負けねぇよ1年には!!」

「ははっ、頼もしいっす!」

両投手の奮闘により5回裏が終わってもお互い追加点を取れずにいた。

6回表。監督が俺たちを集めて声をかけた。

「おい!向こうのエースがブルペンに入ったぞ…見てみろあの頭!ツルッツルだ。坊さんみてぇな頭だろ!このまま奴らの思い通りにさせていーのかよ?」

「(そりゃよくねーよな…)」

「小林!渚!どんなに泥臭くたっていい!雷市の前にランナーためろ!!そうすりゃコイツが何とかする!いや何とかさせる!俺達には生活が懸かってんだからよ!」

監督の言葉に雷市がニカっと不器用な笑顔を作る。

雷市の前にランナーを溜めろ…ね。これが今の俺と雷市の差。本当は後先考えずにぶん回してホームラン狙いたいけどこれは夏の予選だ。先輩たちは負けたら引退してしまう。俺の自己満のために使っていい試合じゃないんだ。

「あの一年投手。絶対投げ逃げさせんじゃねぇぞ!」

どんなに泥臭くても、か…。もし次の打席が回ってきたときに小林先輩が塁にいたら俺はどうすればいいんだろう。ランナーを返すことが目的なんだとしたらその時俺にできることは……

「渚、ちゃんと試合楽しめよ」

「…わーってます」

ニッと笑ってからネクストサークルに入った。

勝つために
(本当にわかってんのかよ…)
(あいつ結構真面目ですからね)
((…余計なこと言っちまったか))






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