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2回表の先頭打者は5番福田さん。福田さん以降の打者は高めのストレートには手を出さずひたすら相手の自滅を待つ作戦だ。うちの監督ってテキトーやってるように見えて結構色々考えてんだよな。俺は待球作戦なんてぜっっったいに嫌だけど理に適ってるのはわかる。

相手はこの作戦にどう反応してくるんだろう。気になってしっかり試合を見ていると降谷はランナーがいないにも関わらずセットポジションを取った。

「ットライーク!」

「(おお…低め…)」

ビデオで見た降谷のストレートはほとんどが高めに入っていた。てっきり低めには投げられないのかと思っていたけど球威を捨てることで低めにも投げられるらしい。

結局福田さんは内野ゴロ、三野さんは三振に倒れてしまった。元の威力が異常だからか多少威力が落ちても打ち崩すのは容易ではないらしい。

「OK!ナイスボール!」

「…あ」

「ぶはっ…」

冗談みたいな光景に思わず吹き出した。

「え?なんで爆笑?」

「いや…あいつ…あんなすげー球投げんのにキャッチボールまともに出来てねーから…ギャップすげぇ…」

「お前のツボって独特だよな」

そうなのか…?取り溢したボールを必死に追いかけてる姿なんて投げてるときとギャップありすぎてめちゃくちゃ面白いと思うんだけど…。

「やってくれるぜアイツら…」

「これでまだ一年ですからね」

「(こりゃあ心へし折るしかねーな…。雷市に回る2巡目…の、前に)」

「…ぶっ…くく…っ、いつになったら…ボール…拾えんのあいつ…素人なの…?」

「(…今回はこいつもいるか)」

ボールを足で蹴飛ばして更に遠くに転がす降谷は見事に俺のツボだった。

「渚ー、いい加減落ち着け」

「…いや…無理っす…」

「次の回、死んでも打てよ」

「え?」

強い言葉に吃驚して笑いが引っ込む。ポカンとしていると監督は更に言葉を続けた。

「じゃなきゃお前を9番にした意味がねぇからな」

「言われなくても打ちますよ。なんならホームラン狙ってきましょうか?」

「おー打ってこい打ってこい!」

真顔で宣言すると監督は楽しそうに笑った。

2回表は三者凡退に終わり再び守備が回ってくる。先頭打者は降谷。こいつ投げんのはすげーけど打つのはどうなんだろう。呑気に眺めていると、降谷は初球から打ちに来た…って!

「(ホームランかよ…!)」

こいつ、めちゃくちゃすぎる。怪物と呼べるような存在なんて雷市くらいかと思っていたけど、ここにもいた。

「カハハハ!お前…スゲェな…スゲェよ!次の対戦が楽しみ……あれ?」

どうやら雷市も降谷に興味を持ったみたいでベースを回る降谷に早速声をかけていた…が、降谷は完全無視。嫌われてんなぁ。

「渚!無視されたぞ…!」

「あそこまで無視されると逆に清々しいよな…。ま、気にすんな」

「おう!…けどあいつほんとスゲェ!カハハ!」

端から見たらお前もあんな感じなんだよ…と、思ったけど絶対に口には出さない。どうせ言ったところで伝わらないだろうし何より素直に認めるのはちょっと悔しい。

あーー、俺も早く打ちてーな。

怪物たち
(…お腹空いた)
(カハハ!腹減った!)
((怪物は燃費激しいのかな…))






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