Pray | ナノ
青道の先発は1年の豪腕投手。常人離れした重くて速い球を放るらしい。ビデオで見てもすごい迫力だったから実物は相当なものなんだろう。

「ハハ…カハハ!な…なんか球がんごぉ〜〜って!イメージよりもずっとスゲェ…スゲェぞ!」

「(うるさ…)」

「カハハハ!沈んだ!スゲェスゲェスゲェ!」

降谷の初球と二球目を見て雷市がはしゃぎ始める。あーもー楽しいのはわかるけどちゃんと打てよ。

「だぁ〜〜クソォ!詰まっちまったぁ!」

降谷の放ったボールがいとも簡単に右中間フェンスに直撃したのを見て思わずため息をつく。あー…くっそ、こいつやっぱすげえ。詰まってこれだもんなぁ…

「カハハハ二塁打〜〜!」

「…ってなんでそこでヘッドスライディング!?普通に三塁狙えよ!」

認めざるを得ない実力を持ってるくせにこういうワケわかんない行動ばっかり取るところがたまにムカつく。……それが雷市の良いところだってことはわかってるけどさ。

続く打者は秋葉。上位打線はスプリットは捨てて、この投手が一番自信を持って投げている高めの球に狙いを絞っている。しかし秋葉はスプリットを敢えて振ることで狙いがバレないようにしていた。

「秋葉の奴演技上手ェじゃねーか!なあ真田よ〜〜」

「監督声でかいっス!」

「お前もちゃんとやれよ、渚!」

「わかってます」

息子が早速打ったからか監督はやけに機嫌が良い。こういうときの監督は大体俺か真田先輩に無駄絡みをしてくる。ていうかわざわざスプリット捨てなくたって何でも打てるし。

「手ェ痛ってぇ!雷市の奴こんな球よくあそこまで飛ばしたな…」

「カハハハハ!ナイバッチアッキー!」

そんなことを考えていたら突然わああっと球場が湧いた。顔をあげると秋葉の打球が三塁の頭を越えていて、雷市が本塁に走って来ている。

外野から鋭い返球が来たが、結果はセーフ。雷市は本気で走れば足もかなり速いし…まあ、当然の結果だろう。

「おかえり」

「カハハ!腹減った!」

「さっき散々食ってたのに!?もうバナナしかねえよ。はい」

ベンチに放置してあったバナナを手渡すと雷市はニカっと笑って皮を剥き始めた。サルみたいだ。少しの間バナナを食べている雷市を眺めていたが、飽きたので試合に目を向けるといつの間にか2アウトになっていた。

…と、いうことは。

「なんだ三島。お前三振か」

「なっ、ちげーよ!お前何も見てなかっただろ!」

ベンチの端っこにいた三島に近寄ってそう言うと、三島は顔を真っ赤にしながら反論してきた。

「うん。雷市ザル見てたから」

「うん…じゃなくて!ちゃんと試合見ろよ!つーか雷市ザルってなんだ…」

「あれ見て。バナナ食ってる雷市がサルにしか見えねえ」

「ぶはっ、…おま…っ、余計なこと…」

「ほら、やっぱり!」

ツボに入ったのか笑いを堪えきれない三島。やっぱり端から見てもバナナにがっつく雷市はサルのように見えるみたいだ。

結局この回は一点止まりで終わってしまった。うちの打線を一点に抑えるなんてあの投手中々やるな。あんなにひょろ長くて見るからに弱そうなのに。

「さ、守備だ守備だー」

「急に機嫌良くなったな…」

「久々の公式戦だからな!守備長引かねえかな〜」

「お前は今すぐピッチャーに謝れ」

「え!…いや、冗談だって」

「絶対本気だっただろ…」

つい本音が漏れてしまった。

俺は試合をするのが大好きだ。だから攻撃でも守備でも出来るだけ長くやっていたいし願わくば壮絶な乱打戦の末に勝ちたい。そっちの方が達成感あるし。

《サードランナーホームイン!すぐさま試合を振り出しに戻しました青道高校ー!》

そんなことを考えている間に同点になってしまった。先頭打者が塁に出て二番が送り三番が決める。まさにお手本通りの点の取り方だ。ひたすら打ちまくるうちでは考えられない。

「ったりめーだぁ!点の取り合いじゃ負けねぇ!覚悟しとけオラァァ!」

「っしゃあ!乱打戦だ!!」

「あぁ?!何か言ったか?」

「何でもないです」

続く4番の打球は運良く雷市のグローブに入り、5番にはツーランホームランを浴びた。

一回を終えた時点でスコアは1-3。逆転は許してしまったけど、こっちの方が俄然やる気が出る。よっしゃ打つぞー!

圧勝よりも
(競り勝ち派!)
(俺も俺も!競り勝ち派!)
(お前意味わかってんの…?)






×
- ナノ -