Pray | ナノ
待ちに待った青道戦。誰かさんのおかげで体調はお世辞にも万全とは言えないけど、それでも今日の俺はいつもより元気だった。
監督の口からオーダーが告げられるまでの話だけど。
「おい雷市!試合前にがっつくんじゃねぇ。お前が打ちたいって言うから1番にしてやってんだぞ。これで結果残せなかったら晩メシ抜きだからな」
「それだけはいやだ!」
「だったら打て!青道叩きつぶせ!」
監督と雷市が戯れるのを横目で眺める。くっそー羨ましい。狡い。雷市だけ扱いがVIP過ぎんだよ。裏付けされた実力があるのは認めるけど、絶対監督は重度の親バカだ。
「どうしたー渚。公式戦デビューだってのに随分大人しいじゃねぇか。もしかして緊張してんのか?」
「してません」
「え…渚緊張してんのか?!そういうときは手の平に」
「だからしてないってば!」
大人しくしていたのがいけなかったのか、二人が俺に無駄絡みを始める。いっつもこれだ。この二人は俺が不機嫌なときを見計らったかのように声をかけてくるのだ。
「………」
「おい雷市。お前渚に何かしたか?」
「してない…多分…」
二人をあしらうのも面倒になってだんまりを決め込んでいるとそんな状況を見兼ねたのか真田先輩が仲介に入ってきた。
「こいつ自分の打順が気に食わないんスよ」
「はあ!?」
「そうだよな、渚」
「……そうです」
「なんだ…。そんなことかよ」
はぁ、と呆れる監督を睨み付ける。監督にとってはそんなことでも俺にとっては全然そんなことじゃない。
「9番の何が気に食わねぇんだ?」
「全然打順回ってこないじゃないですか。俺そんなに信用出来ません?打つ自信、それなりにあるんスけど」
「あのなぁ、だからこその采配だろ。雷市の前にランナー溜めといた方が得点に繋がるからな」
不満をぶつけると、尤もらしいことを言われてしまった。期待してもらえているのは嬉しいっちゃ嬉しいけど、でもなんかそれって雷市のために舞台を整えてやってるみたいで嫌だ。
まあ…でも…公式戦初試合だし、何の成果も挙げられてないんだから、そういう位置に置かれるのも仕方ないか。1番には次の試合でなってやる。
「わかりました。今回はそれで頑張ります」
「カハハ!そうだぞ渚!渚が打って、俺が帰す!連係プレーだな!」
「うるせーよ」
はしゃぐ雷市を一蹴したが、雷市は相変わらずの上機嫌で何やら俺に話し続けている。俺、基本こいつに冷たいけど何でこんなに懐かれてんだ?
《ただ今より準々決勝。青道高校−薬師高校の試合を始めます》
「いいか!ここから先はテメェらの仕事だぞ!テメェのために打て!テメェのために守備につけ!」
監督の声に見送られながら一斉にグラウンドに向かって走り出す。
学校ごとに一列に並び相手をじろっと眺める。茶色…ピンク…黒…坊主…髪、自由すぎねえ?顔も派手なやつ多いなぁ…外野のやつ芸能人みたいな顔つきしてっけど顔採用でもやってんの?
「…?」
気のせい…か?よく見るとそいつらの視線が全て雷市に注がれているような気がする。それが好意的な視線でないことは火を見るより明らかだ。
「お前めっちゃ睨まれてんじゃん」
「何かやったのか雷市…」
「どうせ無駄絡みでもしたんだろ」
「ハハ…カハハハ!」
まあ敵対心はこっちにもあるわけだしお互い様か。
「礼!」
「しゃあぁす!」
一礼するのと同時に目をつけていた投手の一人が思いきり叫びながらブルペンに向かって走っていった。なんかあいつ雷市と同じ匂いがすんな。
青道戦開始
(雷市がHRに1票な)
(じゃあ俺も。渚は?)
(雷市じゃなくて俺が打つに1票)
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