夜久くんと

あれから何日か経ったある日
私は夜久くんと日直の仕事として放課後資料室にいた。
ダンボール二個分の資料を本棚に戻す作業。
一つ一つ戻す場所を探し番号順に並べなければならないから大変時間がかかる仕事だった。
夜久くんは部活に行っていいよと言ったけれど、仕事放ったらかしにできるような人間に見えるか?と苦笑いしながら言われてしまい、じゃあスピーディに終わらせられるよう頑張ろう。と、答えるしかなかった。

夜久くんは気軽に話せるし、『王子様』だとコソコソ陰口を言うこともない。真っ直ぐな人だから好印象だ。
受験はどうだとか部活の話だとか他愛もない話をしていた。
作業を始めて少しするとお互い真剣に仕事に取り掛かり始め無言になる。
ちらりと作業はどれくらい進んだかなと夜久くんの方へ目をやると、背伸びをして本棚に資料を並べていた。

夜久くんは、私よりも少しだけ身長が低い。
本人は気にしているらしく、たまに1年生に指摘され蹴っているところを見かける。案外そこは許せなくて短気になってしまうらしい。
気にしてる所、私と逆だなぁ。

逆ならば夜久くんはお姫様になるのだろうか。

1人でこっそりと笑いながら棚へしまっていると、くそ、ととても小さな声が聞こえた。

その声を出した人は私ではないから一人しかいない。

もう1度夜久くんを見ると、一番上の棚に手が届かないらしかった。
ほんの数センチ。私ならばぎりぎり届くところ。

つい、何も考えずいつもの癖で、声を掛けてしまった。

「やるよ、これお願いしてもいい?」
「っ…いや、いい。」

ぎゅっと眉を寄せる夜久くんに私は首を傾げる。

「怪我されたら困るし。ごめん、貸して。」

そう言いながら半ば無理やり資料を奪い番号を見て棚へ並べる。
すると、はあぁ…と大きな大きなため息が聞こえてきた。

「カッコわりぃ…」
「なにが?」

私は再び首を傾げる。
そこで、あっ、と思いつく。
もしかしたらプライドを傷付けたのかも知れない。
自分が王子だとかなんだとか言われてるから忘れていたが女子に助けられたらどんな男子だって嫌だろう。

「ご、ごめん…つい癖で…」
「いや、いいよ…謝られると逆に……」

どんどん小さくなる夜久くんの声に、私も段々と落ち込んできた。
男の子助けるって普通の女の子だったら有り得ないよね。
こういう時なんて言ったらいいのか。何も言わず作業に戻れるような空気でもない。一か八か、何かしら言ってから作業へ戻るべきだ。

「…その、まぁ…私だから、気にすることないよ」

謎のフォローだ。何が?という顔を向けられる。若干睨まれている気もする。

「ああ…えっと、ほら私って女の部類には入らないしさ、それにほらデカイからこういう時に身長使わなくていつ使うんだ、って感じだから、男だと思って頼ってよ、ね?」
「……」

とても微妙な顔をされた。
いかにも「それ自分で言ってて悲しくならないのか?」という顔。
わかる、悲しい。悲しいけどもう王子様は悲しさなんて忘れました。大丈夫です。

「さ、ほら続き続き!高いところのはこっちでやるから!友達に頼るのも大切なことだからね!」

もう自分が何を言ってるかもわからなくなりながらもその後仕事は数10分で終わった。


別れた後もお互い微妙な気持ちを抱えている。
わたしのせいだから本当に申し訳なく馬鹿だなぁと頭を抱える。



夜久くんと 少し溝ができた気がする。

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