私は王子様

3年5組。ここには王子様、と呼ばれてる人がいる。
サラサラの髪、スラリとした身長、優しく甘い笑顔、女心を理解しているから相談もしやすい。
頭も良くて運動もできて。
ただ、ひとつ残念なところがある。
それは、女の子だということ。
たくさんの女の子の心を掴んでいるが、彼女は女の子だから例え告白されても困ってしまう。
男子からは"クソかっけえから近寄れねえし、もう男にしか見えねえ"と言われている。

ばしゅん、と良い音を立てながらゴールへと吸い込まれるボール。
と、共に黄色い声が上がる。

「きゃああ!!名前様〜!」

名前様 そう呼ばれたのは私の友達だ。



「長々と説明ありがとう、もうやめていいよソレ」

どうも。『王子様』の名字名前です。
友達の謎の一人語りをさらりと流し私はパタパタと手で風を送る。
バスケは好きだ。身長活かせるし。

この身長は、とても嫌いだ。
デカイとかかっこいいとか。
グサグサと刺さる言葉を笑顔で投げつけられるから。

好きで可愛くなく生まれてきたわけではない。
王子様、なんてやめてほしい。
嫌われるよりかは断然いいけど、女であるのに女として見てもらえていないと、周りに認められているこの感覚は何となく息苦しい。

ここだけの話、1年の時、好きな人がいた。
バスケ部の男子だった。
ある日さりげなく、私と恋仲になったらどうする?と尋ねたら「お前綺麗系だけどぶっちゃけ可愛くねえし、一緒に歩くのとか想像できねえんだよな…」と笑いながらバッサリ振られてしまった。
私は好きな人を作ると傷付くと学んだあの日以来、女友達を大切にしようと振舞っていたら、いつの間にか王子様というポジションになっていた。

王子様。
これは私を縛る鎖ではあるけれど、私を守る言葉でもある。

ぐるぐると考えていると試合は終わっていた。
ただの体育の授業だけれどそこそこ楽しめたなぁ。考え事しながらだったけど勝てたしよかったよかった。

「名前今日もすごかったね」

友達はへらぁ、と笑う。女の子らしい身長に女の子らしい体つき。ちょっと変わっているけれど彼女は男子からもモテモテだ。
どうも。と返事を返せば、クラスメイトの男子の声が届いてきた。

「今日もかわいいなぁ…でも名字と並んでるとサマになってて…」
「わかる。名字の彼女!って感じだよなァ…」

隣の友達とカップルっぽいと言われることは何度もある。以前は腹を立てていたが最近はもうなんとも思わない。それ程仲良く見えて違和感無い親友できてるならもうそれでいい。
それにこの子はかわいいからストーカーとか湧いてきたら私が守らないと、とすら考えている。
もういっそ女辞めて本当の王子になりたい。

きゃっきゃと少し離れたところからずっと女子の視線を感じていたのでそちらへ振り向きお疲れ様、と手を振ると、ひゃああ!と悲鳴みたいな声を出された。
ふう、と小さくため息をついて呟く。

「今日から私王子様になるわ」
「何言ってるの?前から王子様でしょ?」

友達の返答に最早傷付くことすらなくなった。
もう私は王子様として生きていきます。
女なんて捨ててやる。

吹っ切れた私は王子様になろうとその日一日務めたが、いつもと全く変わらない行動をしていることに気付き、深い深いため息を吐いたのだった。



私は王子様。




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タイトル『王子さまのふりして』は魔女様よりお借りしました。
それぞれストーリーのタイトルはオリジナルです。

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