こんな姿見られたくなかった

こんな姿見られたくなかった

翌日も私はぼんやりとしていた。
きっと同じような傷を抱えている似た者同士。
もっと別の共有の仕方さえしていれば仲良くなれていたのかもしれない。
ぐるぐると反省しながら準備をし家を出る。

学校へ行くまでにいろんな子に声を掛けられる。
周りに人が増えると道が狭くなってしまうから控えて欲しいと思っていたり。

「何か悩み事ですか?」
「もしかして恋煩い…!?」

きゃー!とはしゃぐ1年生の女の子達に違うよ〜と笑いかける。
学校に着けば自然と周りのギャラリーは離れていき、ほっと安心する。毎朝これだから慣れてしまったけど、これって異常なことだよなぁ。

靴箱の前でいつもの友達にばったり出会う

「おはよう」
「おはよう名前。どうしたの?悩み事?」

ことんと首を傾げる友達は本当にかわいい。

「なんか、さっきもそれ言われたけど…なんで?」
「ココ」

ここ、と友達は自らの毛先をつまむ。
窓ガラスに写った自分の姿を見て、あれ、と声が出た。
見事にぴよんとはねた寝癖。

「気付かなかった」
「抜けてるとこもかわいいけど、留めとこうか」

教室へ向かっていた友達はピタリと立ち止まると、シンプルなヘアピンをカバンから取り出して私の髪に触れるとぱちんと留めてくれた。

「うんうん、これだけでも女の子らしさ増すねー」

ふわっと笑う友達は相変わらずかわいい。
女の子らしさ、これだけで出るものなのだろうか。
うーんと首を傾げながら教室に入ろうとすると、ドアが開いた。中から出てこようとしたのは夜久くん。
開けようとした私の手は空をさまよい、相手を認識するとばっと手を引く。
そんな私のちょっと失礼な態度に夜久くんは気にもとめず、きらっと光る笑顔を向けてくれた。

「おはよう!突然ドア開けて悪かったな!」
「おはよう、大丈夫だよ」

教室外への用があると見て、一歩後ろへ下がると悪いな、と笑ってすれ違っていった。
昨日のこと、気にしてないのかな……
どれだけ心が広いんだ彼は。
昨日の失態はずっと私の心に張り付いている。
つい、彼の前で王子様になれなかった。

仕方ない、そんなこともある、と言い聞かせて
気にしていないフリをしながら、教室へ足を踏み入れた。
王子様はいつも笑顔でいないといけないから。



夕方、私は友達の日直を手伝っていたら帰りが遅くなってしまった。友達はそのまま部活へ行ったので、帰宅部の私は一人夕陽に照らされる校内を歩き帰宅しようと考えていた。

そこで、ばったりと、夜久くんに会った。
なんでだろう最近夜久くんによく会うような気がする。
目がバッチリとあってしまい、何か声を掛けた方がいいのではないかと言葉を探す。すると、向こうから声が掛かってきた。

「こんな時間に珍しいな。周りの奴らもいねえの?」

周りの奴ら…は、私の周りによく来る後輩中心の団体だろう。暇さえあれば話しかけに来る彼女達。

「うん、遅くなって危ないかもしれないからさ…先に帰ってもらったんだよ」
「へぇ…名字はいいのかよ」

少し怒ったような顔をされて戸惑う。私はいいのか、って何のことだろう。
質問の意味が理解出来ずええと、と言葉に詰まる。

「名字は危なくないのかってことだよ。名字だって女子だろ」

女子だろ、ただそれだけの言葉にブワッと顔が熱くなる。そんな言葉言われたの、いつぶりだろう…

「わ、私は、」

赤くなる顔を腕で隠しながら、いつものように私だから大丈夫、と続けようとする、しかし、

「名字だから大丈夫って昨日も言ってたけどお前女だろ?無理して周りに合わせなくていいんだよ」

かっこいいって、言われる人に
王子様って、言われる人に
そう意識してきたからいきなりそんなこと言われても困る。
私は王子様のふりしてないと強くなれなくて、生きていけない。

「私は、かっこいいって思ってもらえる人に、」
「名字は可愛いよ」

夜久くんの言葉は、いつも周りから言われる言葉と正反対で、ドクドクと心臓が痛くなる。
きっと今すごく情けない顔をしていると思う。
涙すら零れそうになっている。
恥ずかしさから、ふらふらと床に座り込んでしまう。

「かわいくなんて、」
「今日のそれ」

目の前に来た夜久くんの指先が私の付けているヘアピンに触れる。

「髪型、いつも以上にすっげえかわいい」

私の目線に合わせてしゃがみ込んだ夜久くんが微笑む。
私も、女の子らしく振舞ってもいいんじゃないかと錯覚してしまう。
少しだけ流れてしまった涙を拭って、ありがとうと小さく返事を返した。


こんな姿、見られたくなかった。
…でも、夜久くんでよかった。

何だろうこの気持ち。

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