出立しても眠い(前日譚前)

「おい、起きろななし」
 ゲシッと足で蹴りそうな気配を感じてから、ゆさゆさと肩を揺さぶられる。ねむい。「ねむい」と口に出してしまった。それに呆れるような声が聞こえる。さっきと比べて近い。人の気配も、近く感じた。
「もう出発すっぞ。早く起きろ」
「うそ」
「嘘じゃない。本当だ。昨晩のことを忘れたのか?」
 ハキハキと喋る声が聞こえる。そっちも嘘でしょ。どうしてそんなに起きれるの。服が肩からズレる。サイズが合ってないブカブカだから、当たり前だ。私を起こす人物の体を掴み、その足に頭を乗せる。あ、膝。太腿。固い。眠気が先んじて、枕にしてしまった。
「まだねむい」
「寝ながらいってんじゃねぇよ。置いてかれちまうぞ?」
「ほぼ全員が起きたぞ」
 ほぼってことは、まだ寝てる人もいるってことじゃん。ずるずると服を引っ張る。思ったけど、これ、ゲーラだ。メイスがさっきから横で口を出したりしている。
「おいおい。んなこたぁしても、俺ぁ寝ないぞ」
「先にこの場を離れることが先だからな。お前だって捕まりたくないだろう」
「うー」
「政府の奴らに」
 うぁっ、眩しくなった。うっすらと目を開ける。東の空から覗いた太陽が、完全に地平線から顔を出した。そんな、二段階みたいに明るくしなくても。ゲーラでカーテンをした。
「ねむみ」
「はぁ、わぁったよ。次の地点で寝ていいからよ、とりあえず起きろ」
「昼寝も大事だからな。ほら、起きろ。ななし」
 くしゃくしゃと撫でてきてから、また撫でてくる。大きい手。最初はゲーラで、次がメイスだ。くすぐったくて、目を開ける。
「つぎって?」
「走ってりゃぁ着く、って。この調子じゃぁ事故を起こしちまうな」
「居眠り運転からの逆走や追突事故もある。後ろに乗せた方が、まだ事故は少ないだろう」
「だろうな。とりあえず、起きるまで俺の後ろ乗っとけ。落ちるんじゃねぇぞ」
(ねむい)
 なんか、タダ乗りとか機に生じたとかラッキーとか、そういうことが起きた気がするけど、ねむい。ふぁと大きな欠伸をする。「すっげぇ眠そうだなぁ」とボヤくゲーラに、メイスが「あぁ」とだけ頷いていた。
 スッと後ろに乗せられて、体に触れる壁にギュッとしがみ付く。あ、壁じゃない。ベッドでもなければ布団でもない。ゲーラだ。とりあえず、胸の方を握ろうとしたら体が落ちる。ねむくて脱力した。ギュッとゲーラのお腹とベルトを掴む。
「器用なヤツめ」
「荒っぽい運転はできないな?」
「笑うんじゃねぇよ。チッ」
 舌打ちしても、そもそも、ゲーラのバイク、バギーは相当荒っぽいのはできなかったはず。なんか、バギーより大きくて、自分の体で立て直したりしない限りは、相当もずかしかった気配が、難しい。
 薄っぺらい背中に体を預ける。立ちながら眠るのも、難しい。横になりたい。
「おい。もうズレてんじゃねぇ」
「大変だな。ゲーラ」
「うるせぇ」
(メイスのバイクに乗ったら、一発で落ちそう)
 そして頭か顔から落ちるというオチだ。そういうことを考えてたら、マイアミダラス他数名が、一斉に発車した、ような気がした。ゲーラの体にしがみ付く。風を感じても、眠いものは眠かった。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -