真夏の暑さ(消火後)

 今日は暑いから台所に立ちたくない。あるもので間に合わせたい、夏バテで食欲がない。そう全会一致してキッチンの棚や冷蔵庫を見たら、なにもなかった。
「買ったの、いつだっけ」
「覚えてねぇ」
「買い込んだはずなんだが」
 どうやら、知らない間に使いこんだのらしい。冷蔵庫の中も空だ。外の暑さが億劫で、クーラーに逃げ込むうちに食べ物がなくなった。(リオがいないと、こんなにもグダグダになる)そう思いながら、ちょっと身なりを整える。「近くにデリってあったっけ」「おー、あった、あった」「なんなら留守番をするか? キンキンに部屋が冷えてるぜ」とゲーラに続いてメイスが提案する。確かに、魅惑的だ。けど二人の好みに偏ったラインナップになる。それだと非常に困る。薄味を食べたいし、野菜の方も食べたいからだ。
「ん、や、行く」
「そうか」
「サングラスと日傘差しとけよ」
「あったっけ?」
「帽子ならあるぞ」
 買った覚えないけど。そう思いつつ、部屋に戻る。日焼け止めを塗って、サングラスもかける。夏の日差しはキツい。最悪裸眼のままだと、目が潰れて死んでしまう。財布も入れて、格好をチェックしてから部屋を出る。既に二人は用意を終えていた。サングラスをかけたゲーラから、帽子を被される。こんなの、いったいいつのまに買ったことやら。「被れなかったの?」と聞けば「うるせっ」と返される。図星なのかな。同じくサングラスをかけたメイスがさっさと外に出るものだから、続けて外に出た。
 鍵をかける。ここからデリまで、徒歩数分のところだ。真夏の日差しが熱い。日陰の中にいるというのに、夏の熱気でジワジワ汗を掻いてきた。頬を伝って、顎から落ちる。拭えば、サラリと手の甲を滑った。
(暑い。はやく入りたい)
 階段を下りていると、ポツリとゲーラがいった。なんとなく、思い付いたようにポツリと。
「ぶっ倒れてねぇよな」
「あぁ、あの人のことか。その心配はないだろう」
「リオのこと?」
 二人がボカした名前を口に出せば、二人が黙る。まだ、名前で呼ぶことに抵抗があるんだろうか。確かに、私と違って『ボス』として尊敬していたところが強い。私はといえば、リオ個人とボスの二つを見て接してたわけだけど。まぁ、うん。そこのところは別にいい。まだ慣れないなら、慣れないで仕方ないんだろうし。
 帽子を深く被る。熱を吸って、布の生地が熱い。
「多分、大丈夫だろうとは思うよ。ちゃんと自己管理もするし」
「違いねぇ。村にいるときは、いつ寝てるんだって感じだったが」
「仮眠を取っていたとは聞くが、まぁもう少し寝てほしかったな」
「そういって、どうにか寝かせていたじゃん。理由をつけて」
「まぁ、そうだけどよぉ」
「あの人は、結構気負いすぎる。もう少し俺たちに頼っても」
「よかったのに? でも、頼ってたようには思えるよ。無理な分は無理って、分散してたし」
 仕事の量を、と口に出したら二人が黙る。階段を降り終える。どの階の住人とも会わなかった。みんな、部屋に引き籠もって涼しんでいるようだ。
「海に行ってるかも」
「あの人の愛車でかね」
「まぁ、海は涼しいからな」
「今年の夏って、西に行けば涼しいんだっけ?」
「さぁなぁ。とにかく、今年は暑ぃらしいからな」
「西に行ったとして、砂漠の問題があるだろう。あぁ、それもありか」
「なにそれ」
「真夏で砂漠の暑さを味わう」
「そりゃ、金のかかる娯楽なこったで」
「娯楽?」
「生命線の案内役を雇う必要がある」
「あと、野営道具とか色々な。手間がかかるぜ」
「そうなんだ」
 バーニッシュだった頃はわからなかったけど、そんなに。普通の人間になると、大変なんだな。
 日差しがジワジワと肌を焼く。日焼け止めを塗ってるから、そんなに火傷はしないけど、それでも暑いものは暑い。「日傘、買っておけばよかった」というとメイスが「そうだな」という。続けて「三人分」と口に出した。
「デリに置いてねぇだろ。あったとしても、雨傘だぜ」
 ゲーラが続けていう。現金で、現実的なことを言い出した。
「当たり前だろ。置いてあるわけあるか」
 そうメイスが吐き捨てる。なんか、ポンポンと真上で話が飛ぶなぁ。チラリと道路の向こうを見たら“OPEN”と札を下げた扉が見えた。もちろん、全部閉まっている。換気より冷気を取った。店の名前を白く書いた大きな窓の向こうを見ると、壁の上にテレビがある。下らないコメディだ。それを見ている客もいる。
「暑いねぇ」
「暑すぎて死んじまうくらいだぜ」
「デリに着くまで溶けるなよ。多分、もう少しだ」
 そういって、メイスがスマートフォンを出す。画面をタップして、情報をもしもし。直接耳に当ててはないけど、指の動きがそうだった。「なにかお得な情報ある?」と聞くとゲーラが「アイス」と被せて尋ねる。それらにメイスが「ねぇな」と答えた。言い方がぶっきらぼうである。
「アイスの特売もねぇ。寧ろ溶けちまう」
「クーラーボックスを持ってくるべきだったぜ」
「そもそも、家にある?」
「ねぇな」
「レンタルするにも、金がかかる」
「買うしかないかぁ」
 出費が嵩張る。そう無駄口を叩いていると、デリに着く。店に入ると、涼しい冷房が私を出迎えた。
「はぁ、生き返るー」
「溶けるなよ。とりあえず、缶詰の方を見るか」
「レトルトにしようぜ。鍋に入れて数分でできるヤツ」
「だったらレンジでできる方がいい。そっちの方が楽」
「ゴミを捨てるだけで済むしな」
「大皿に乗せりゃぁ、それだけで見栄えも良くなるしな」
「あと他にも色々」
 そうご飯のことを考えながら、アイスのコーナーに向かった。なるべく固いのを選ぶ。あっ、食べながら歩いちゃいけないんだった。
「溶ける」
「溶けちまうなぁ」
「確実に溶けるだろ。固め直しても、原型がないぞ」
「やめとく」
「まっ、冷凍ピラフならその心配はねぇだろ。寧ろレンチンする時間が短縮するぜ」
「ゲーラ、夏の暑さで頭をやられたか?」
「帰ってる最中にも、熱暴走で缶詰が爆発するかなぁ」
「懐かしいぜ。食えたもんじゃねぇ缶詰で爆弾代わりにしたこともあったなぁ」
「食い物を粗末にするな。いや、確かにあのときは腹を下すしかないものは、それに再利用したが。って、そうじゃないだろ」
 今は食えるものしかないぞ。とメイスが突っ込む。ゲーラが軽く頭を振りながら「あー」とボヤく。もしかして、一番暑さにやられてるのは、ゲーラの方じゃないだろうか?
「熱中症に効くのも、ついでに買おう?」
「よしきた。こういうときこそ、グーグル先生だ」
「ググるな!! いや、んな心配されるまでもねぇよ!」
「でも、結構頭グラグラきてるし」
「なるべく着色料の入ってないスポーツ飲料を選ぶか」
「メイスまで。んな心配してんじゃねぇよ」
「いつものはダメだとよ」
「うっせ!」
「コーラもダメだって。糖分だと逆に糖尿病になるとか」
「あー、あー。だったら、水ってか?」
「いいや、OS‐1らしい」
「美味しいと、熱中症だから休むんだって」
「おー、なっつかしいなぁ、おい」
 そういって、ゲーラが薬のコーナーに向かう。薬剤師のいるコーナーと、目と鼻の先だ。そこから適当に選んで、『OS‐1』とあるラベルを掴む。そのボトルをカートに入れる。見慣れた箱は、無視した。
「あぁ、こっちも買っておくか?」
「あん? まだ大量にあっただろ。寧ろこっちの方が」
「ねぇ。食べ物を買いにきたんだよね?」
 思わず止めに入った。


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