えっち禁止条約(消火後)

 たまにはゆっくりしたい。そう口に出したら、二人がキョトンとした。膝を抱えると、ゲーラが顔を顰める。
「はぁ? どこに不満があンだよ。ゆっくりしてンじゃねぇか」
「ピザの味が気にくわないのか?」
「そうじゃなくて。ピザは大丈夫」
 むしろ冤罪だ。って、私がいいたいのはそうじゃない。えっと、なんだろう。そう、こういうことで。頭の中で整理し、組んだ足の指を解く。
「その、二人の相手をするのが、うん。大変ってことで」
「あ? 今はシてねぇじゃねぇか」
「それはいいんだけど」
「気に入らないのか」
「いや、なんというか、その」
 ゲーラの反論がくると、メイスが鋭く問い詰める。うぅ、隙のない二段構え。本当、リオがいるときは大人しいのに。リオもリオで、タイミングが悪い。といっても、リオの自由だ。それを邪魔するつもりはない。(ただ、私の勝手で)リオがいないと、大型犬になるから、それが大変なだけで。狼というか。(リオがいると、猫みたいに大人しいのに)グスンと鼻を啜る。
「腰とかお尻とかが、痛い」
「あー」
「そりゃぁ、悪かったな」
 心当たりがあるからか、素直に謝ってくる。ずっと出し入れされたり、酷使され続けたりしたのだ。当然、その反動がくる。
「二人も味わえばいいのに」
「お前、突っ込むヤツねぇじゃねぇか」
「便利な道具があっても、突っ込まれる方が楽だぞ」
「どこが? 準備とか大変じゃん」
「ケツの方はな」
「それ以外は、感じてるだけでできてンじゃねぇか」
「乱暴。そういうことじゃなくて」
「SとMの理由、知っているか?」
 いきなりなにをいいだすんだろう。「なに?」とだけメイスに聞き返す。
「『S』はサービスの『S』で、『M』はマスターの『M』だ」
「つまり?」
「抱かれてる方が楽だっつー意味だぜ」
 またゲーラが乱暴に纏めた。抱かれた方が楽、っていったって。現に、私は腰の痛みとお尻の痛みに苦しんでいるのに? 確かに、痔とか血は出ていないけれど。はむっ、と冷めたピザを食べる。
「喉がガラガラになるのに?」
「抱かれた宿命だと思え」
「途中で水飲ませてやっただろ。って、待て。おま」
「あれで飲ませたというの?」
「なんだ? ペットボトルから飲みたかったのか?」
「別に問題ねぇだろ。そーいうことをしている真っ最中だったんだぜ?」
「口移しが?」
「おう。っつか、メイス。おめぇ、もしや」
「それは野暮なツッコミだと思わないか。ゲーラ」
「お、おう」
「そういうものなの?」
「そういうもんだな」
「現に今はしてねぇだろ。ほれ」
「ありがとう」
 確かに。今は一切、そういうことしてこないし。ちゃんとTPO? なるものを弁えているのかもしれない。ミネラルウォーターのボトルを受け取る。それを空になったコップに入れて飲んだ。
「薄まるだろうに」
「もう氷の味だけだから」
「そうか」
「ピザの方も、冷めちまったなぁ」
「受け取ってから時間が経ったからな」
 その間に起きた出来事に関しては、ノーコメントで送りたい。はぐっと大きな一口で食べて、ピザの耳を遊ばせる。ゲーラはパンイチで、メイスはズボン。私はシャツを羽織っただけの、お互いに全裸の状態だ。痕は消えたけど、吸われたような感触は残る。注ぎ足した水を飲んで、ピザの耳を食べた。
「とにかく今は、しばらくは『無し』で」
「んだよ。我慢しろってぇか?」
「一人で処理すればいいだけの話だろう。まぁ、やりすぎたことに変わりはないしな」
「でしょ!? もう本当、死を覚悟したんだから! とにかく、しばらくは無しってことで」
「そんなに善かったのかよ」
「まぁ『腹上死』というのもあるくらいだ。当分、大事に扱った方がいいだろうな」
「そうそう。大事に扱って。本当、死にそうだったんだから。ゲーラもメイスも、味わうといいよ」
「そりゃ、無理な話だな。体が入れ替わらねぇ限り、できねぇだろ。それ」
「それをいうなら、精神が入れ替わる話じゃないか? 昔、どこかで見かけたぞ。その手の話」
「どこ?」
「さぁな。忘れた」
「俺ぁ覚えてるぜ。確か、昔の漫画だったか? とにかくヤベェ内容だったぜ」
「なにそれ」
 ヤバイといわれても、いまいちわからない。そう返すと、メイスも「さぁな」でゲーラが「あー」と唸った。多分、どう説明すればいいのか、わからないんだろう。ストローで溶けた氷の分を飲んだ。ほのかにレモネードの味がする。
「ヤベェとしか、覚えてねぇ」
「そっか」
「年代物の中にはドギツイものも紛れ込んでいるからな。そのどちらかかもしれん」
「いや。そこまでは酷くなかった覚えはあるぜ。戦争物じゃなかったしよ」
「そうか」
「色々あるんだねー」
 適当にそう返して、ナゲットを抓んだ。食べると、パサついたお肉の味がする。うん、自分で仕込んで味を染み込ませた方が、美味しいかも。頼むならポテトが良かった。そう思いながら、ミネラルウォーターを飲んだ。
「しないでね?」
 以前、シャワーを浴びてる最中にしてこようとしてきたし。そう口に出すと、二人が黙った。おい、せめて返事くらいしろよ。そう睨みつけながら、着替えを取りに行った。
「しばらく我慢しなきゃなんねぇのかよ」
「蛇の生殺しだな」
「お酒に漬けられたいの?」
 現に生きたまま酒に漬けて、養命酒を作るらしいし。そう声をかけたら、また二人は黙った。


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