ゲーラだって嫉妬はする

「それ、なんだよ」
 極東の島国にある炬燵とミカンについて思いを馳せていたら、突然ゲーラが話しかけてきた。トントンと自分の首を指している。ちょうと顎の付け根辺りだ。ダボっとしたタートルネックの首を引っ張って触れば、なにもない。ボーッとしてそこを何往復して触ってると、突然ゲーラが手を突っ込んできた。
「つめたっ」
「あけぇぞ」
 グッとゲーラの手の甲がタートルネックの首を下げる。おかげでニットの温かさを離れ、首元が寒い。ハァと肩を竦めて残る片側に口を埋めたら、ゲーラの眉に皺が寄った。寒い。間接的に首を反らすはめとなったので、余計に外気に晒された首筋が寒い。
 ゲーラの手が、首の熱を奪う。冷たさを与えたことに対する謝罪は、ないのか。
「赤くなってんぞ。虫刺されか? この時期に刺すヤツはいねぇだろ」
「あー」
 もしかして虫刺されの心配なのだろうか? 確かに、この寒い時期に蚊は出ない。殆どは活動停止中だ。それか氷の中か。
 ぼんやりと赤くなった理由を考えていると、ゲーラの指が肌を押してくる。ある一点を押したら、肌を滑って次の一点へ。その道筋を考えていると、あぁと思い当たることに気付く。
(そういえば、今朝。メイスに)
 なんかキスされたっけ。その辺りに。そのことを告げると「あ?」とゲーラが尚更不機嫌そうな声を上げた。ついでに顔も、機嫌の悪いそれに歪んでいる。
「なにも、じゃれ合ってる延長じゃん」
 ゲーラもしてくるし。そういうと、余計にゲーラの機嫌が悪くなった。グッと、タートルネックの首が肩まで伸ばされる。それ、設計に入ってなさそう。デザインの仕様上を超える伸び具合に不安を抱いてたら、ゲーラが首を支えてきた。
「好きなヤツにしかしねぇよ」
 タートルネックの首がゲーラの手ごと包む。
「『好きなヤツ』って?」
 好きと一口にいっても、色々とある。伸びるタートルネックの不安から解放されると、安心である。ふぅと一息吐いて、飲みさしのホットココアを口に運ぶ。まだ、温かい。
「他の女の話すると、てめぇ、機嫌が悪くなるだろ」
(確かに、胸がシクシクと痛んだり、なんか不思議に機嫌が悪くなったりするけど)
 でも、ゲーラほどではない。別に。無言で答えてたら、「はぁ」とゲーラが息を吐く。溜息と似てるような、それに近いような。わからなさすぎる。
「お前が他の男の話をすると、俺だってそうなる。嫉妬ってヤツだ」
(しっと)
 英語にすると"envy"である。嫉妬、しっと、羨望? パラパラと頭の辞書を捲ったら『羨望』の意味が先に出た。
(せんぼう)
 いったい、なにに羨望して、羨ましがってるんだろう。
「心配しなくても、私の中ではゲーラとメイスが一番だよ」
 そういうと、ゲーラの手がピクリと跳ねる。それから、恐る恐る耳の裏も撫でてきた。
「もちろん、リオも」
 大切な仲間である。そういうと、スッと、ゲーラの指が耳の裏を擦った。それから「はぁ」と大きく溜息を吐く。落胆だ。これは、ハッキリと落胆とわかった。
「そうじゃねぇよ」
 疲れたように言い捨て、もう片方の首も下げる。ニットの温かさが離れた。
 もう片方の状況にも顔を顰めると、ゲーラは首に顔を近付けてきた。そのまま、ちゅうっと吸い付いてくる。朝のことを、名残りも思い出して、キュッと体が縮んだ。シンクとゲーラとに挟まれる。気を抜いたら、シンクの流しに肘も着きそう。そう思いながら、吸い付くゲーラの行為に耐える。物寂しさを覚える口を、カップで隠した。ホットココアの香りがする。けれどゲーラが、肌の隙間を縫うように吸い付いてくるのをやめない。
 ちゅう、と離れる。ひやりと濡れた首筋に寒さを感じた。外気に触れて乾く暇もなく、タートルネックの首に隠される。そしてもう片方も下ろすと、同じように肌の隙間を縫って、強く吸い付いた。また、頭がクラクラする。それにギュッと目を瞑ってると、ゲーラの顔が離れた。
 ひやり、と乾いた空気が濡れた首を触る。スッと手も離れると、タートルネックは元の位置に戻った。
(少し、伸びている)
 弛んだ首元を触ってたら、ゲーラに唇を触られた。人差し指で顎を支えられ、親指で撫でられる。それを自由にさせていたら「後のお楽しみに取っておくか」と呟かれた。
(いったい、どういうこと)
 そう思ったけど、またいつものことなんだろう。そう思い直して、自由になった口でホットココアを飲んだのであった。


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